アンダーグラウンド掃討作戦(三百三十)
「おい! それ何だ?」「ええっ!」
突然響く上司の声。高田部長はたじろぐ。
な訳はないが、声の方を振り向けば本部長の指は、『それ』を指すには『あらぬ方向』である。
投げたのは確かに『ハンドスピナー』であるが、今は『それ』ではなく『あれ』であり、『それ』が『あれ』で無ければ何か。
『スパーン』「あれれっ! 外しちゃったじゃないですかぁ」
答えは『あれれ』だ。時代は移り変わる。つまり『あれ』の状態から『れ』一文字分だけの時間軸が移動したことを意味する。
ついでに『狙いを外した』のも本部長の責任として押し付けた。流石は高田部長だ。隙が無い。
そうこうしている間にも、レッド・ゼロの二人は依然『逃走中』である。『何が起きたのか』は理解しているが、『どうしてそうなった』かは不明だ。しかし今は、振り返っている暇はない。
本部長が投じたヌンチャクは、確かに後頭部を捉えていた。勿論『大佐』のだ。
しかしそこで、本部長は思い出す。
奴はそれでも『百人組手』を生き残った強者であったことを。
全身複雑骨折からの『奇跡のカムバック』を果たし、僅か三カ月で現場に強制復帰。
その後、『校長室』で『大佐役』を演じる羽目になった。
だからと言って、黙って座っていたのかと言うと、そうでもない。
真っ先に『百人組手の禁止』を『校長勅令』として発布。
発案者の依井少佐を『謹慎処分』とし、『自宅待機』を下命してちゃっかり帰宅を果たす。それは金曜日の十七時のことだった。
しかし事態は急転直下。週明けの月曜日、うっかり九時に出勤してしまい、そのまま『自宅待機違反』の現行犯で逮捕されてしまう。
奥さんが作ってくれた弁当を、鎖で繋がれた校長室で食べたそうな。そのときのおかずが『茄子の煮浸し』である。
鞄の中には『醤油の良い香り』が、よぉくしみ込んでいたそうな。
何だっけ? そうそう。思い出した。
だから大佐の後頭部には『鉄板』が埋め込まれていたのだ。
『カチーン』「いてぇっ! 何d」『ゴンッ』「つぅぅぅ」
鉄板で良い音を立てたのは『光源側』だ。
一方の『起爆側』は、真っ直ぐに跳ね返っていた『光源側』と衝突してしまった。その影響で方向が変わる。
やや下向きに再び跳ね返った『光源側』とは別に、『起爆側』は上方へと弾き飛ばされていた。勢いで縦方向に回転を始める。
そして二つの『持ち手』は、大佐の頭部を中心に別れて自由落下を始める。繋がれたゴムが頭頂から頭皮へと同型に成りにけり。
かくして『起爆側』は、無事大佐の鼻頭へと到達せしめた。
諸君も確かに耳にしたであろう。刮目したであろう。
大佐が後頭部を気にした瞬間に、『起爆側』が突如として眼前に現れ、殴打し、苦痛に歪む表情を魅せながらも倒れ行く姿を。
そう。誰の目に留まることもなく、静かにひっそりと。




