アンダーグラウンド掃討作戦(三百二十三)
子犬のように後ろ襟を掴まれて、大佐はおとなしく部屋を後にする。きっと民間人に手は出せない。そんな一心なのだろう。
何だか飲み会に行くのを嫌がっている後輩を、無理やり連れて行くような。そんな感じさえする。しかし大佐は、酒なんかで酔っぱらったりはしない。
何かのときに『酔うのは自分にだけだ』と言っていた。気がする。
「大佐っ、私も行きますっ!」
軍服を着ているのだ。誰が見ても『軍人』であることは明らか。一助になりたいし、そのための訓練も積んで来ている。
しかし振り返った大佐の顔は少し寂しそう。それどころか『大丈夫。抑えろ』と、手を前に出しただけ。大佐、それは無いです。
無情にもドアが『シュッ』と開いて、大佐の姿が見えなくなった。
「千絵、大丈夫よ」「そうかなぁ」
「えっ何? 仲間を疑っているのぉ?」「いやいや」
千絵が慌てて手を横に振る。すると聞いた朱美が『プッ』と吹き出して、笑ってしまっているではないか。
朱美も『あの二人の実力』について、知る所なのだろうか。まぁ同じ会社だし、知っていてもおかしくはない。
情報収集のためにも、後で『それとなく』聞いて見よう。
当然『大佐の実力』については疑う余地もない。逆に失礼だ。
黒豹部隊に残る『数ある伝説』によると、先ず挙がるのは『百人組手を生き残った男』であろう。
きっと六人位は屁でもない。M16をどうするのかが見ものだ。
「富沢部長が居るから。ねっ?」「えっ?」
美魔女の方を見ている。あぁ、あの人が『プラックスワン』か。
「任せて朱美。大丈夫。この状況を立て直して見せるわ」
「流石です」「見てなさぁい。さぁ、やるわよっ!」
何だか残された二人が意気投合して、勝手に部隊をコントロールしようとしている。まぁ『復旧』と言った方がしっくりするのだが。
いやいや、そうじゃなくて。えっ? 大佐はどうなっちゃうの?
「じゃぁ別の通信を試してみましょうか」「えっ、このまま続行?」
「そりゃぁそうよぉ。我々しか生き残っていないし」「う、うん」
朱美は親指で『ピッ』と後ろを指し、大佐はおろか上司まで皆殺しにしてしまった。あっという間だ。『あ』。
「大丈夫よ。私達なら出来るわ。ミントちゃんもお願いねっ!」
こっちも。二人共『同僚に対する配慮』はないのだろうか。
『承知しました。設定値表示に切り替えます』
人工知能三号機の冷たい声が響く。
するとスクリーンには『廊下に出た三人』が映っていたのだが、それが『パツン』と消されてしまった。
代わりに表示されたのは物凄い数の設定項目と、それらの状態を表した一覧だ。数字がプルンプルンと揺れ動いている。
そんなものを見せられても千絵には判らない。どうしようかとオロオロするしかないのが実情である。マジでマジで。
後ろから聞こえて来たのは、二重扉が『シュッ』と閉まる音。




