アンダーグラウンド掃討作戦(三百二十)
「どうだ? 通信は復旧しそうか?」
スクリーンに映されたままの赤い点。ピクリとも動かない。
フリーモードになってしまった機体だ。本部から前線までの通信回線が、プッツリと途切れてしまっていることを表している。
今は『動く者』全てに対し、殺戮を繰り返しているだろう。敵味方関係なく。皆公平に弾が尽き果てるまで。
「判りません大佐っ! ねぇ、予備にも繋がらない? どう?」
千絵は手元に集中し大佐の方を見ない。いや、見れない。
そのまま朱美の画面を覗き込んだ。開発元のハッカーなら、何か『裏技』でも使えないだろうか。
「予備もダメぇ。メンテナンス用の低速回線にも応答しないわ」
やはり『裏技』は存在したようだ。しかし千絵と朱美は顔を見合わせるしか出来ない。随分と不味い状況だ。
チラっと大佐の方を見ると、凄く怖そうな顔をしているではないか。だから、手を上にして『お手上げ』のポーズは我慢。
その後ろに立つ高田部長は、大佐のことを馬鹿にした仕草をし続けている。下品に笑ったり、大佐の顔真似をしたり。
あぁ、本部長に至っては論外だ。完全に蚊帳の外。
一体何のために存在しているのかすら不明。手持ち無沙汰なのか、ゴルフのスイングをしてみたり、大きなあくびとか伸びとか。
表情は『お前らそれぐらいのこと、早く何とかしろよぉ』とでも言いたげに。いや或いは『定時になったら帰れるんだろうなぁ』か。
余程肝が据わっているのか。それとも本当は何も理解していないのか。表情からして『まだまだ想定内』と読み取れないこともない。
一つ判っていることは、きっと『お客様』が居なければ、『チェスを始めている』に違いないということだけだ。
『侵入者です。総員六名。全員M16を装備しています』
さっきから何も変わらないスクリーン上に、監視カメラの映像が映し出された。どう見てもそこは見覚えがある。
薄荷乃部屋に入る、『廊下の風景』ではないか。人工知能三号機の報告通り、自動小銃を左右に振りながら慎重に歩く男の姿が映し出された。
「キャーッ!」「朱美! 落ち着いてっ!」
立ち上がって叫んだのは朱美である。
富沢部長も立ち上がったが、それは朱美をなだめるため。支えようと走り寄るが、千絵が先に支えてくれたので、倒れずに済んだ。流石軍人。落ち着いている。
直ぐに富沢部長は千絵に頭を下げながら、朱美の両肩からしっかりと抱きしめた。
目を見ながら何度も頷き、『大丈夫。大丈夫』と声も掛ける。
落ち着け。この部屋は大丈夫だ。そう呼び掛ける富沢部長が落ち着いて居られるのには理由がある。
そう。『入り口のロック』を解除出来る訳がないからだ。
重厚な鉄で出来た二重扉に、顔認証。加えて、難攻不落なパスワードによって、ガッチリ守られている。きっと『こんな事態』を想定して、厳重なセキュリティーが施されているのだから。
「ミントちゃん、扉開けてくれ。暇だから『歓迎』して来る」




