アンダーグラウンド掃討作戦(三百十九)
薄荷乃部屋では牧夫が忙しく手を動かしている。高田部長から指示された『極秘作業』を、渋々実施中だ。全くもって人が悪い。
「ナンバー二十八ぃ。リミッターカットォ。最大出力ぅ」
調和型無人飛行体の一機を選定してコール。
すると画面上に、突然『警告』の赤文字が現れる。
『バッテリー残量が十%を切っています。墜落の恐れがあります』
人工知能三号機からの警告も合わせて。
しかし牧夫の表情は何ら変わらない。いや、ちょっとだけ面倒臭そうな顔をした位だ。
「特権『良いからヤレ』を発動。電圧上昇。最高速試験開始ぃ」
誰が命名した特権かは推して知るべし。コールされた瞬間、画面上の警告が消えた。そして画面に表示される項目がグッと増える。
どうやら開発者のみが知る特権まで駆使して、『実機試験』を勝手に始めたようだ。短い時間だが、安全出力を越えたらどうなるのかのデータを取得し、制御プログラムの動きを診る。
コントロール不能となる事態になったら即時修正を加え、次の調和型無人飛行体を選定だ。
本来であれば『自社の実験場』で行うべきテスト内容である。
しかし、本物の武器を搭載している今の方が、より精度の高いデータが得られるのは確か。道義的に違反していたとしても。
なぁに問題ない。『アンダーグラウンドの出来事』は、全て非公開がお約束なのだ。
それに、実際の戦場で『武器のテストを行う』ことなんて、どの国の軍隊でも行っている。『みんなやっている』ことなのだ。
当然、さっきまで『通常時の指揮権』は陸軍の方にあった。
しかし、NJSにとって『都合の悪い事態』になってしまった今、コントロールは剥奪させて貰う。NJSにしてみれば、『フリーモードにしてしまう』なんて、陸軍としてあるまじき行為だ。
現在はNJSが独自に設置したアンテナを経由して、調和型無人飛行体全ての実権を握っている。
牧夫が全ての機体をコントロールしていた。陸軍が購入しなかった『オプション』も駆使して、やりたい放題だ。
只今十五機を破壊して、チェックリストの三十番を消化中。
中々に忙しい。故に『誰か手伝いに来いよ』と思いながら、監視モニターを眺める。そして、『向うよりはマシ』と思い直した。
NJSの本社ビルには、同じ構造の薄荷乃部屋が二つある。目的は勿論『バックアップ』だ。
高田部長が居る方には『陸軍のお客さん』が来訪していて、今は形ばかりの指揮を執っている。そう思うと些か哀れか。
しかもそこへ、自動小銃を持った『テロリスト』が近付いているではないか。一人、二人。えぇ? 六人? どうするんだろう。
ハッカーではあるが、飽くまでも『一般人』である牧夫はちょっとだけ心配する。
高田部長にはいつも助けて貰っているし、本部長だって、いつも飲み代を割り勘にしてくれるではないか。




