アンダーグラウンド掃討作戦(三百十七)
「少尉殿、乗って下さい。行きますよっ」
声がして装甲車のドアが開いた。中から田中軍曹が顔を出す。
指さした方角にはスナイパーが居る。山岸少尉は仕方無さそうに頷いた。振り返ってたなっちときよピコにも声掛けだ。
「おい、行くぞっ。乗り込め」「はーい」「了解ですぅ」
山岸少尉が助手席へ。後の二人は後席だ。
たなっちがドアを開けると、きよピコの後ろから『俺も乗せてくれ』な顔をした一団が続く。
何だったら、きよピコを押し退けて乗ろうとする勢いだ。
「ダメだ。もう『満員』だから」「乗れるだろうよぉ」
やはり『乗るつもり』のようだ。きよピコの肩に手を掛けて『俺も乗る』いや、『俺が乗る』を猛烈にアピール。
その後ろの奴は装甲車の中を覗き込むと、中を指さした。
「もう一人位、乗れるだろうよぉ。乗せてくれよぉ」
たなっちも車中を覗き込む。確かに五人は乗れるだろう。
しかし、たなっちは忘れていない。その席は『山ピー』のものだ。
卑劣なブラック・ゼロの罠に嵌り首チョンパになってしまった。だから『山岸少尉特別攻撃隊』には一名の欠員が存在する。
だからと言って、そう簡単にはチーム入りを認めたりはしない。
山岸少尉から下賜される菓子が、減ってしまうからだ。あと、四十九日法要も執り行っていない。半年は経過したかもしれないが。
「少尉殿ぉ。ダメですよねぇ?」
たなっちが車中を覗き込んだのは、山岸少尉に助けを求めるためだった。すると山岸少尉がドアを開けて口も開く。
「ロボ操縦の『エキスパート』じゃないとダメだっ。邪魔だっ!」
一喝してドアを閉めてしまった。取り付く島もない。
「早く乗れっ! 『フリーモード』を逃してしまうぞっ!」
「はい少尉殿っ!」「じゃぁ、そう言うことなので。閉めるよ」
たなっちときよピコが乗り込む。『バタン』とドアが閉まった。
「おいっ! 『フリーモード』って何だぁ?」
返事がない。防弾ガラスだから聞こえないのだろうか。
いや、絶対聞こえているはずだ。意味も解っている。だって、きよピコが『そんなのも知らないのかよぉ』とあきれ顔だから。
しかし、答えるつもりは無いようだ。
「少尉殿! 何ですかぁ? 『フリーモード』ってぇっ!」
慌てて山岸少尉の横顔に向かって叫ぶ。しかしこっちは聞こえていないようだ。左手を耳に添え『何だってぇ?』な顔をしている。
焦っているのか、耳の前に左手が添えられているのだが。
装甲車は急発進する。古いコンクリートの上を凄い勢いで加速したものだから、砂埃が舞い上った。
「少尉殿っ! ゲホッ」「ゲホッ」「ゲホッ」「うへぇ」
本部跡の陰に残された兵士達。口を手で塞ぎ、もう片方の手で顔の周りの空気を払い除ける。ちきしょう。何てこった。
ササっと行ってしまったではないか。『付いて来い』と言っておいて何だっ! こっちは『徒歩』なんだぞ? 追えと言うのか?
「あちっ」「え、どうした? あちっ!」「おい待て。雨だぞっ!」




