アンダーグラウンド掃討作戦(三百十六)
「では少尉殿、鮫島少尉はどうしましょう?」「あぁ?」
ぐったりしている鮫島少尉を指さして聞いている。一斉に。
何しろ五人で持ち上げているので、一人頭としては軽いのだろう。全員が鮫島少尉を掴んでいるのとは反対側の手でだ。
見れば総員『病院に逃げられないんじゃ只のお荷物』な顔に、なってしまっているではないか。『出来れば今直ぐ手放したい』とも。
気持ちが全面に溢れ出ている。おやおや。鮫島少尉も気の毒に。
随分と慕われてい『た』ようだ。山岸少尉は鼻で笑う。
「このまま運ぶと、スナイプされるかもしれませんしぃ」
一人が進言する。どうやら『スナイパーは一人』らしい。
だから陰になる所を選んで、ダッシュで駆け抜けているのだが、『お荷物』を持ったままでは格好の的になってしまう。
「でも、撃たれるのは誰か一人だろぉ?」
山岸少尉は右手の人差し指を伸ばし、グルリと各位を一周させた。
ほら。五人で持っているのだ。一人くらい撃たれても、無事運ぶことが出来るだろう。さっさと良い感じの所に置いて来い。
「嫌ですよ」「俺、背中から撃たれちゃうじゃん」「陰に隠れるわ」
何だか仲間割れか? まぁそんなもんだろう。どうせ『病院へ逃げ出そう』としていた根性無しだ。碌な奴らじゃない。
「お神輿みたいに、担いで行けば良いじゃねぇか」
山岸少尉の提案に、一同の顔が『ぱぁぁ』と明るくなる。
「それだっ!」「馬鹿『それだ』じゃねぇよっ!」「いてっ」
うっかり思ったことを口にして突っ込まれた奴がいる。
八割の確率で確かに『賛成』と相成る所だった。それがどうだろう。素早い突っ込みのせいでおじゃんだ。
それには発案者の山岸少尉もがっかりである。溜息をつく。
「じゃぁあれだ。遺体袋にでも入れて置けっ」
「それだっ!」「馬鹿。まだ生きてんだろうがっ!」「いてっ」
同じ奴だ。気が合うんだか知らんが、お前ら『この戦争』が終わったら、漫才師にでもなるが良い。
お陰で、再び『それもダメかぁ』な空気が漂い始める。
しかし山岸少尉にそんな様子はない。むしろ自信ありげに言う。
「もう『死んでいる』と思えば、狙われないだろうが。なぁ?」
小首を傾げると『頭を使え』とばかりに、自分の頭を人差し指でトントンと指す。からのニヤリと笑顔だ。
「そうかっ!」「なぁるぅほぉどぉ」
「もしかして、それで担いで行けば、行けるんじゃね?」
「おぉ。行ける行ける」「お前、頭良いなぁ」
「おい。まだ未使用のがあっただろう。一つ持って来いよ」
何だかその方向で決定したようだ。兵士の一人が走り去った。
「チャック閉めたら窒息しちゃうかなぁ?」「さぁ? どうだろぅ」
「やっぱ、するんじゃね?」「いや、考えたこともねぇよ」
そりゃそうだ。息をしなくなってから使う物だから、窒息するケースなど、想定もしていないだろう。
とりあえず鮫島少尉は、遺体袋に収納されてしまった。
誰が見ているか判らないので、一応拝んでおくことにする。合掌。




