アンダーグラウンド掃討作戦(三百十四)
鈍い音がしたが、別に死んじゃいない。今は。
たなっちがきよピコを呼び寄せる。田中軍曹は入り口付近を見張っていたので、たなっちの正拳突きは『無視』していた。
音は『咳払い』で何とかなっただろう。知らん知らん知らーん。
「きよピコ、足の方持て」「あいよぉ」
生体を持ち上げてみたが案の定繋がっている。何だ。一滴の血も出て来ないではないか。
あぁ、本当に『こんなこと』になってしまって、残念の極み。
頭に荷物がぶつかって、気を失っていただけのようだ。
死んじゃうと、下半身から色々と出て来るらしい。持ち上げて見ても特に『汚れ』は見当たらない。やはり生きていると言える。
「早い所『病院送り』にしちまえ」「目を覚ましますかねぇ?」
スヤスヤとお休み中であるが、確かに何時目を覚ますか判らない。
「一発ぶち込んじゃいますぅ?」
顎で肩に担いだ自動小銃を指し示す。驚いたのは山岸少尉だ。
「おいおいきよピコぉ。89式なんて、何処で拾って来たぁ?」
「えっ? その辺に一杯落ちてますよぉ?」「うぞっ!」
再び驚く。何と言う体たらく。どんだけ混乱しているんだ。
遺体を埋めて、『墓標の代わり』にでもするつもりか?
「良いの有ったら、俺のも拾ってくれよ」「えー。自分で行けよぉ」
たなっちのお願いには、どうしても厳しいきよピコである。
「じゃぁコレ、俺が貰うなっ」「えっ。あぁ、どうぞぉ」
されど、山岸少尉の要求には逆らえない。生体の左足を離して『ドン』と音がしたことは無視して、肩に担いでいた89式を外す。
ちょっとへの字にしながらも『どうぞ』と渡した後は、再び生体の左足を持ち上げた。足元と89式を交互に見ながら後ずさりだ。
「おい、きよピコぉ」「はっはい。ななんでしょう?」
受け取った89式を『ガチャガチャ』と操作していた山岸少尉が、苦笑いで呼び止めた。きよピコはバレたと思って驚く。
ポケットに隠し持っている『手榴弾』は、一個しかないのに。
「こいつ、曲がってて使えないぞ?」「えっ、ホントですかぁ?」
何かおかしいと思ったら、見れば弾倉もないではないか。左側に残っている傷は細長い金属の跡。そこで僅かだが、グニャリと曲がってしまっている。まぁパッと見、素人は『使える』と思うだろう。
「あぁこれぇ、もしかして『ロボに踏まれた奴』じゃないのかぁ?」
89式を前に突き出す。口をへの字にして首をちょっと傾げながら。聞かれたきよピコの方は、首をもっと傾げることしか出来ない。
「そうなんですかねぇ」「ふっ判んねえのかよ。しょうがねぇなぁ」
おい。たなっちに言われたくはない。きよピコは明らかに不機嫌な顔になって、たなっちと山岸少尉を交互に見る。
どうせたなっちが先に見つけたって、絶対喜ぶ癖に。何を言う。
「少尉殿ぉ」「まぁまぁ。たなっちもそう言うな」「はぁい」
嗜められて、たなっちまでふくれっ面だ。一方のきよピコの方はと見れば、こっちは少しだけ機嫌が直ったか。まったくぅ。
山岸少尉は『面倒臭ぇなぁ』と思いつつも、フォローを忘れない。
「これ裏から『ボンッ』て押せば、元に戻るかもしれねぇからさっ」




