アンダーグラウンド掃討作戦(三百十三)
突然現れた一面の赤に、黄土色のつぶつぶが加わった。
口を押さえながら進むと『まぁ、そうなるだろうねぇ』という光景が広がる。意外なことに、たなっちときよピコは平気そうだ。
「お前ら平気なのかぁ?」「えぇ。まぁねぇ」「うん。だよなぁ」
山岸少尉の確認に、二人は顔を見合わせて困り顔だ。
歯切れが悪い。勿論『全然平気っすぅ! 飯も食えますっ!』とまでは行かないまでも、口をへの字にする程度ではあるらしい。
「俺達何つーか、バイクで『風を感じたい』じゃないですかぁ」
「そーなんすよぉ。だから、こういうの一度や二度じゃないんでぇ」
顔を見合わせて『なぁ』と頷く。すると山岸少尉は納得したのだろう。軽く手を振りながら『判った判った』と頷いた。
本部の中は大分荒れている。見た感じ、使える部品は無いだろう。
何処を見回してもでっかい穴は開いているし、壁一面にあったであろう電子装備は焼け焦げた跡が広がっている。
おまけに消火器まで破裂したのだろうか。
細かいことだが『消火器の粉』は埃よりも細かいので、コンピュータの周りでの使用は厳禁だ。冷却ファンが吸い込んでしまったら、内部にも悪影響が出てしまうだろう。
本部にどうして『一般火災用』の消火器が配備されてしまったのかは不明だが、完全に選択ミスである。
まぁ、『こんな事態』は想定されていないのだろうが。
そもそもマシン室ではタバコも葉巻も禁止だし、カレーだって食っちゃダメだ。きっと仕様書に『軍用なら兵器』とでも、重大な誤記があったとしか思えないではないか。
頭上にある棚から物が落ちているのも頂けない。
安全委員会から指摘を受けて、即『改善命令』が出るだろう。
『天井までキッチリ入っているから大丈夫ですっ! キリッ』
そんな言訳は通用しない。現に上から落ちているし、よりによって頭の上に落ちているではないか。可哀そうに。退けてやれ。
「ざまぁみろっ。鮫島の野郎じゃねぇかぁ」「おっ、どこすかぁ?」
見覚えのある横顔だ。そりゃぁ、ほぼ毎日顔を合わせていたのだから間違えるはずもない。忘れたくても忘れられない顔だ。
しかしそこへ、たなっちが駆け付けて見えなくなった。
「もしもーし。死んでますかぁ? (ペチペチ)」
パッと振り返ってからの笑顔だ。良いぞ。鮫島少尉の頬を平手打ちした右手を握り締め、縦に振り下ろしながら親指を突き立てる。
その笑顔を見て、山岸少尉は当然『死』を確信して頷く。
『やった。これで『全権』は守られたっ! 俺の天下だっ!』
「ゴホッ。うーん……」
嬉しさの余韻に浸る間もない。山岸少尉の顔から笑顔が消えた。
それは、たなっちにしても同じだったようだ。笑顔から一転。一瞬垣間見えた『迷い』から、『決意』の表情へと目まぐるしく変化。
突き立てていた親指を拳に添えると、そのまま鮫島少尉の頭に打ち込んだ。勿論、大きな『ゴンッ』という音が本部内に響く。
「もしもーし。死んでますかぁ? (ペチペチ)」
パッと振り返ってからの笑顔。いや、正確には苦笑いだ。




