アンダーグラウンド掃討作戦(三百十)
多分『北』を目指して走ること数分のことだ。山岸少尉は見覚えのあるものを見つけた。方向を変え、直ぐにそちらへと向かう。
後から追って来た三人にも、山岸少尉の意図が判ったらしい。
「やっぱり全員が指さしたの『北』だったらしいなぁ」
隊長機を停止させた山岸少尉が、にこやかに歩いて来る。追い付いた二人も機体を停止させて降りる。
「そうですねぇ」「いやぁ、『何となく』だったんだけどなぁ」
感心しきりだ。辺りを見回すと互いに顔を見合わせて頷く。
きよピコだけが『見覚えのある物』に近付いていた。
「これ『俺達の本部』じゃないですかぁ」「そうだよぉ」
覗き込んだのは装甲車だ。凄く丈夫そうな乗り物ではある。
しかし気に入ってはいない。何だか知らないが『危ないから』と言われて作戦前に支給されたのだが。
いかんせん装甲車は『風』を感じない。『安全』を感じるのが主目的だとしても、やはり『多少の危険』がないと乗り物とは言えぬ。
こんなのに乗るぐらいだったら、『いつものバギー』の方が好き。
乗り方は自由だし、万が一ひっくり返っても何とか起こせる。
「軍曹、こいつを運転してくれ」「了解しました」
山岸少尉も装甲車を『だれが運転すべきか』について、ちゃんと理解しているようだ。田中軍曹はコンソールを開き、配下の小隊を『追従モード』に切り替える。そして装甲車へと乗り込んだ。
「少尉殿、何処へ行くんですかぁ?」
「本部だよ。鮫島の野郎がいる所さ」「あぁ『最初の所』ですねぇ」
「そうだ。あっちな」「はーい」「了解でーす」
山岸少尉が指さした方角を見て一同頷く。今度は大丈夫そう。
歩き始めた所で、山岸少尉がパッと振り返った。
「鮫島の奴、立派に『昇天』していると良いなぁ」
ニッと笑う。同じ陸軍士官として、心ばかりでも心配はしていないのだろうか。今まで、余程仲が悪かったのだろう。
まぁ、同じ釜の飯を食ったからと言って、全員が全員『大親友』になる訳でもなさそうだ。
「生きてたら、殺っちまいますぅ?」
素敵な笑顔で何を言う。きよピコも大概のようだ。
「いやいや。それはまずいだろぉ。ねぇ少尉殿ぉ?」
たなっちが苦笑いで突っ込みを入れ、山岸少尉の方を見る。
しかし山岸少尉は無言だ。笑顔で目をピクピクさせるだけで、否定も肯定もしない。戦場では『何でも有り』なのだろうか。
「えっ? 少尉殿、殺っちまうんですか?」
慌てて確認だ。親指を立てて喉元を『キュッ』と横切らせて見せるが、お悩み中なのだろうか。『それも良いなぁ』と頷くだけ。
「よぉしっ。じゃぁ本部に行って、指揮をとるぞぉっ!」
結局不明である。指揮官としての決意も滲み出ているが、本当の所はどうなのだろう。たなっちは少々心配にもなる。
すると、走り始めた山岸少尉が振り返った。大声で叫ぶ。
「大丈夫だ。病院送りにして、退場させちまうからよぉっ!」
前を向いた山岸少尉の背中に、二人は安心して声を掛ける。
「さっすがぁ」「ですよねぇ。ボコボコにしてやりますかっ!」
右手をサッと上げてそれに答えると、振り被って前進を指示した。




