アンダーグラウンド掃討作戦(三百九)
「向うじゃないですか?」「いや『向こう』ってどっちだよ」
きよピコが指さしているのに、たなっちが無碍もなく突っ込むものだからちょっと不機嫌そうだ。指さしを止め、突っ込まれた頭をポリポリとやって口を尖がらせる。
「少尉殿ぉ」「いや、俺も判らんからぁ」
助けを求めるように言われても困る。そもそも『判らない』から止まった訳で、こうして再び集まったのも『解決策を探るため』だ。
何しろこの中で『一番早く本部に行きたい』と思っているのは、山岸少尉自身なのだから。
「私『南の探し方』知ってますよぉ」「それはダメだろっ!」
左手首の『腕時計』を、右手で指さしながら持ち上げたのは田中軍曹だ。ニッコリ笑って凄く自信ありげに。
しかし、折角の『豆知識』を披露するまでもなく、山岸少尉にポカリとやられてしまった。
「少尉殿、まだ何も説明してないじゃないですかぁ」
気を使ったたなっちが、田中軍曹を慰めながら言う。
互いの『突っ込みとしての立場』に、共感するものがあったとしても、『今のタイミング』は早過ぎると思ったのだろう。苦笑いだ。
「こいつの時計『デジタル』だから意味ねぇんだよっ」「はぁ?」
短針を太陽に向けて、文字盤の十二と短針の中間が南である。それで『大体の方角』が判る訳だ。山で道に迷ったら使えるだろう。
だから『デジタル表示』では意味がない。
山岸少尉はそう伝えたかったようだが、たなっちはそんな知識を知らないので判らない。何しろ一切の説明がないのだから。
いやその前に、『アンダーグラウンドで太陽の位置』が判るのか。突っ込むならそっちなのだろうが、そこには誰も突っ込まない。
そもそも山に行くなら『方位磁石』は必須だし、地図を見て、周りの地形と照らし合わせて進まないと遭難は必至。特に冬山は。
「じゃぁ、目を瞑って『いっせーのせっ』で指さしましょうよ」
ニコニコ笑いながら提案したのはきよピコだ。
「そんなんで判るのかよっ!」「いてっ。いや多数決ならなんとか」
無論たなっちに突っ込まれる。しかし今度は苦笑いだ。
きっと言った自分も『ホントかな?』と、思っているに違いない。
「そんじゃ、一発やってみっか」「えっ、少尉殿マジすかぁ?」
「急いでんだからさっさとやるぞっ! みんな目を瞑れっ!」
肩も腕もグルングルン回して『準備体操』をしたかと思ったら、山岸少尉はさっさと目を瞑ってしまったではないか。
「了解しました」「はーい」「大丈夫かなぁ」
そうなると、流石の三人も従わざるを得ない。ブツブツ言いながらも目を瞑った。かに見えて、たなっちはちょっと目を開ける。
「ちゃんと目瞑れよぉ」「すいませんっ!」「開いてたのかよっ!」
山岸少尉は目を瞑ったままで判ったのだろうか。いや、聞こえないように『しょうがねぇなぁ』と呟くのを見る限り『勘』のようだ。
「いっせーのせっ。こっちぃ」「こっちー」「あっちー」「後ろ―」
指さした状態のまま全員が目を開ける。そしてキョロキョロ。
指し方は様々だが全員が一致とは如何に。一斉に笑い始める。
「俺達気が合うなぁ。よぉし。付いて来いっ!」「GoGoGo!」
南は『時計』で判るらしいが、北は『多数決』で判るらしい。




