アンダーグラウンド掃討作戦(三百八)
「おい、やべぇよ。よりによって大佐だよぉ」
無線機の前に、山岸少尉の部下が全員集合している。いつも偉そうにしている山岸少尉が、物凄く渋い顔をしているではないか。
他の三人は『だから?』な感じで、ポカンと見ているだけだ。
田中軍曹にしてみれば、将校はみんな雲の上の人。
白い服を着てヒラヒラした飾りが付いていれば、ペコペコしなければならないのは誰でも一緒だ。大佐と大尉は勿論、少尉だって大して変わらない。もちろん『階級章』で見分けは付くのだが。
一方のたなっちときよピコは、白い服を着てヒラヒラした飾りが付いている中で、山岸少尉が一番偉いと思っている。残念ながら『見分け』何て、付く訳がない。
勿論着いた所で、山岸少尉の言うこと以外を聞くはずもなく。
「大佐って、偉いんですか?」「白いの着てるんですか?」
無知な二人の質問に、山岸少尉は『答え方』に迷う。
たなっちときよピコの二人を、大佐の前に出すことは考えてはいない。それでも、いきなり頭を『ペチン』なんてやった日には。
流石にそれはまずい。反省文を書くことになるだろう。
「あぁ。『まぁまぁ偉い』感じかな」「へぇー」「そうすかぁ」
成功だ。二人の表情を見れば『酔って肩を組んで歩こう』としたりはしないであろうことは判る。だとしたら次のセリフを。
「軍には『もっと偉い奴』が沢山居るしな」「ですよねぇ」
これで良いだろう。何とか『少尉と大佐の比較』の説明については逃れる。まぁ説明しても、三秒後には忘れていそうだが。
説明を求められる前に『仕事だ』とばかりにマイクを握り締める。
そして、片足を引っ掛けて恰好を付けてから話す。
「あーあー。こちら、山岸少尉の隊であります。CCCどうぞー」
「少尉殿、こちらのスイッチが入っておりませんよ?」
すかさず田中軍曹に言われてしまった。山岸少尉はとりあえず、田中軍曹の頭を『ペチン』とやっておく。
「馬鹿。練習だよ!」「そうですよ。軍曹殿ぉ。慌てすぎ」
「気が付いてない訳、無いじゃないですかぁ」「す、すいません」
どうやら丸く収まったようだ。軽く頷いてスイッチを入れる。
「こちら、山岸少尉の隊であります。CCCどうぞ」
『山岸君か! 良くぞ生きていてくれた!』(カチッ)
「ほら。大佐は俺の『マブダチ』だからよぉ。『君』呼びなのさ」
「おぉっ、流石少尉殿っ!」「ちょっと話、聞いてやって下さいよ」
「あぁ、静かにな。ちょっと待ってろぉ」
勝手に解説を付け加えてから、無線のスイッチを入れる。
「その声は大佐ですね」『そうだ。CCCからだ』「はい」
無知な二人は『大佐と呼び捨てにしている』と思ったのか、目を丸くしたではないか。手を口に当て小さく『オー』と言っている。
『連絡が遅かったではないかね?』
「あぁ、ちょっと、安全地帯を探しておりましてぇ」『そうか』
「はい。何しろここは『危険地帯』ですからぁ」『実はそうなんだ』
山岸少尉は上手く言い逃れが出来たと一瞬思う。
「えっ?」『えって、ええっ?』「あぁ、ですよねぇ。はいはい」
がしかし、大佐からの返しが予想外だったのだ。それでも何とか誤魔化せたか? 向うもこちらも。向こうも? こちらも?
大丈夫。バレていない。後はデカい態度をしていればOKだ。
『本部がやられて復旧作業中に、第一中継所が壊滅した』「はぁ」
ドジな奴らだ。本部に居たのは鮫島少尉だろう。俺達が到着したときは誰も居なかったがな。警備が手薄だったんじゃないのぉ?
山岸少尉は『第一中継所』のワードについては、脳内をスルーしていた。そういう難しい単語は田中軍曹にパスするに限る。
その程度で問題ない。必要なら後で再生してくれるだろう。
「だから現在、全機が『フリーモード』になっておる。注意せよ」
再び『知らない単語』が現れた。何か注意するらしい。
一瞬田中軍曹の方を見るが助言なし。たなっちときよピコに限っては、聞くまでもないが、え? 何か知ってるって?
何か言っているが、口を塞ぎながら言っているので『フヒー』としか聞こえない。しょうがねぇな。無線を切ってから聞くか。
「あぁ? はいはい。フリーですねぇ。判ってます。はい了解です」
ペコペコ頭を下げておけ。きっと『判ってる』って判ってくれる。
『君は随分落ち着いて居るんだなぁ。感心するよ』
判ったよぉ。流石俺。まぁ、こんなもんでしょ。
「自分、こういうの慣れてますからぁ」『おぉ、頼もしいなぁ』
「何でも任せて下さい!」『他に誰かいるか?』「私の隊だけです」
山岸少尉は胸をドンと叩く。無線に音が入ったかは不明だ。
『では本部に行って、指揮を執りたまえ。状況が判ったら報告せよ』
「承知しました。失礼します」(カチッ)
「お前ら、俺が『指揮官』だぁぁっ!」「おおおっ!」「すげぇ!」
「本部に行くぞぉぉっ!」「イエェェェイ!」「ヒャッホォイッ!」
山岸隊はロボに飛び乗って、直ぐに移動を開始した。全員嬉しそうだ。しかし、先頭を行く隊長機がピタリと止まり、振り返った。
「おい。本部ってどっちだぁ?」




