アンダーグラウンド掃討作戦(三百四)
「んん? 何だぁ? 『フリーモード』になってるぞ?」「えっ?」
コンソールを見て呟いたのは、レッド・ゼロ五番隊隊長の赤山だ。
隣にいた赤星も覗き込む。赤一色になったのは判るが、意味は判らないので今度は赤山の顔を覗き込む。何だか嬉しそうなのだが。
逆探知をしようと試みていた。理由等の詳細は赤山だけが知る『最高機密』だ。他の隊員は何も知らずにただ指示に従うのみ。
敵の本部を急襲して、使用している『敵の信号』について詳細情報を得たのだ。それを利用しない手はない。
とりあえず安全を確保した上で、電波の受信を開始。すると確かに『仕様通りの電波』を受信することが出来たのだ。しめしめ。
それでも『発信元』については不明だ。方向が判らない。
通常なら三カ所にて電波を受信し、正確な方角と距離を割り出すのだが、残念ながら一か所ではそれが出来ない。
何しろ隠密行動中だし、レッド・ゼロが保有するコンソールは、鹵獲した一台しかないからだ。移動して再度受信するしかない。
しかし、その移動さえもままならない状況なのである。
こうして逆探知を始めてから、ここで二カ所目。
電波は強くなったり弱くなったりしているのが判るだけで、どうにも方向までは判らない。隊長の指示で『動き回るだけ』に思える隊員にしてみれば意味のない『転戦』だ。不満も溜まりつつある。
突然、受信していた電波が『プッツリ』と途絶えたのが二秒前。
何事かと焦っていた矢先だ。顔の表情には出さないようにして。
思い起こせば、あれからまだ一分も経っていない。正確には五秒。
それでも『遠い昔の出来事』に思えるから人生は不思議だ。『こんなことが起こるのか』とさえ思ってしまう。
「隊長、どういうことですか?」「それは俺にも判らん」
理由はどうでも良い。赤星は何でも知っている赤山の口から、そんな答えが飛び出て来て驚く。しかし、赤山の顔は大分ニヤケているではないか。まるで『作戦成功』を確信する悪そうな笑顔だ。
ブラック・ゼロが立案した作戦名『本部九周』は暗号で、実は『本部の周りを九周回ること』ではない。
三周程回った所で『何かおかしい』と気が付くことをお勧め。
赤山の腹巻に挟まれている作戦書には『特記事項』がある。
それは巻末の『索引』にも載っていない秘密の章『フリーモードになったら』だ。そこには次の記載がある。
『もし『フリーモード』になったら、『隊長選挙』を実施せよ』
本文も暗号化されており、正式名称とは若干異なる。コンソールに表示されるのは『リーダー選挙プロトコル』だ。確かに判らん。
本来の起動契機はこう。戦場で孤立した機体の合流時や、隊長機破損時だ。そうなると速やかに自動動作する。
自動警備一五型同士で『スペック』を交換し、新しい『部隊長』を選挙で選ぶ。だから『拒否は出来ない』仕様だ。
「おい、『家の部隊』は、全・員・揃っているかぁ?」
「何人か死にましたけどぉ、生きているのは大体いまぁすぅ」
「ちげぇよ『人間』じゃねぇよ『ロボ』の方だよ!」「そっちぃ?」




