アンダーグラウンド掃討作戦(三百)
アンダーグラウンドとは、昔は『街』だった所だ。
人工地盤の上に一斉に引っ越したことで、『忘れ去られた場所』でもあるのだが。ガラーンとしていて、誰も住んではいない。
基本的に建物は『移設出来ます』だったのであるが、そこは新築大好きな日本人のこと。新しい更地の上に新しいお家を構えた。
その後は『一定の期限付き』で、元の住戸は取り壊しする筈だったのだが、『臭い物には蓋をする』のも日本人。
見えなければ取り敢えずは良いでしょう。の精神により放置。
結果として、古くなった木造住宅はいつしか崩れ落ちる。
そして十年に一度とか、三十年に一度の『大洪水』が発生すると、良い感じに流されて行き、基礎を残して綺麗さっぱり。
あぁ、撤去しなくて良かったワァ。お得だワァと喜んだ。
と、成れば良いのだが、下流の方は困ってしまう。
お金を掛けて自宅を解体した人は、不満でブー垂れよう。流れ着いた瓦礫が自分の敷地も、かつての道路も塞ぐ。オオマイガー!
道路を塞がれてしまったら、もう手の付けようがない。
自分の家じゃないのに余りにも理不尽だし、浮浪者が生活する上で必要な『薪』とするにしたって、ゴミは大量である。
だから『アンダーグラウンドのパトロール』をするには、最初に『地図作り』が欠かせない。それは誰もが理解する所だ。
「きよピコぉ、お前、あんまりウロウロするなぁ?」
文句を言っているのはたなっちだ。山岸少尉に怒られたら可哀そうだと思って、先に叱ってやっているのだが。
「何でぇ? 初めての所は『先ず地図から』でしょぉ?」
それをきよピコは、全然判っていないようだ。口を尖らせている。
「今日は良いんだよ。今日はぁっ! すいません。少尉殿ぉ」
きよピコを言い包めた後は、クルリと振り返って山岸少尉に頭を下げる。するとまだ『不満気』であるが、きよピコも頭を下げた。
「まぁ良い。きよピコ、ここ『蔵前橋通り』かぁ?」「さぁ?」
秒で首を傾げるきよピコ。山岸少尉の『まぁ良い』で機嫌が直ったのか、もうニコニコである。なたっちは渋い顔のままだ。
「結構戻りましたよね?」「うーん。戻り過ぎたかなぁ」
田中軍曹の意見に、山岸少尉も首を傾げる。結構走ったしなぁ。
暗闇でグルグル回ってしまっては、幾ら何でも方向感覚が狂う。
「もし『戻り過ぎた』のなら、充電もしたいよなぁ」「はいぃ」
山岸少尉は隊長機の『バッテリー残量』を見ながら考える。
「まだ『敵陣の中』なんじゃないですかぁ? ほらあれぇ」
きよピコが指さしたのは古い廃墟のビルだ。四人は一斉に見る。
小さな明かりが漏れ出ていて、ご丁寧に『自動警備一五型』が一機、文字通り警備中。確かに違和感しかない。
「敵の秘密基地なんじゃないすか?」「怪しい匂いがプンプンする」
「陸軍なら『一機で警備』なんてしないしなぁ」「ケチくせぇっす」
全員の勘が『敵の秘密基地』だと告げている。ならば仕事だ。
「あれぇ? あっちから『安全地帯の電波』なんか出してますよ?」
「何だとぉ? 生意気だなぁ。よし。良い物をお見舞いしてやろう」
山岸少尉はニヤリと笑って『温存していた機体』を呼び寄せた。




