アンダーグラウンド掃討作戦(二百九十八)
念のために説明しておくが、この世界に神戸県は無く、あるのは兵庫県であり、明石は今も昔も兵庫県である。
こちらの世界で県境が変わってしまったのは、千葉県浦安市が東京都江戸川区に併合された位だ。著者が知る限りでは。
「もしかして、陸軍の『大佐』が居るってことじゃね?」「あっ!」
赤里の指摘に、赤上は思わず人差し指を『ピッ』と指す。
「『あ』じゃねぇよ」「じゃぁ『い』」「お前は関係無いだろっ!」
呆れた赤里の苦言に答えたのは、さっきから腹が減っているとアピールする赤右だ。奴が発する情報は、既にノイズでしかない。
「つまり、どういうことだ? 全然判らんけど」「お前なぁ」
叩かれた頭をポリポリしながら赤右が聞く。何となく判った赤里は呆れているが、赤上から一応の説明は必要だろう。
「この線を辿って行った所に、『マザーコンピュータ』がある」
自信を持って言った赤上の言葉に、赤里も同意して頷く。
「おぉっ!」「やったじゃん!」「じゃぁ、早く行こうぜっ!」
残りは喜びの雄叫びだが、それでも色よい返事が二人から帰って来ない。断言した割には渋い表情のまま固まっている。
「どっちなのかは判らん」
線だから『こっち』と『あっち』の二方向がある。その方角を順番に赤上が指さした。最後に指した『あっち』は、今来た通路を辿って『あっち』の方まで伸びている。角を曲がって『縦穴』にでも?
正しい行先はジャンケンで負けた奴が探ることになるだろう。
一方の『こっち』はと言うと。足元から伸びて。
「この扉の先に行くしかないジャン!」「こっちにしようぜっ!」
再び賛成多数で民主的に決まったようだ。顔を見合わせて頷く。
それよりも、誰も『縦穴』の方へは行きたくないのだろう。
「じゃぁ、この扉を開けないとダメじゃんかよぉ!」「だよなぁ」
「赤里ぉ。どうすんだよぉ」「そうだそうだぁ」「責任取れよなぁ」
「ちょっとお前ら待て。今考えるから待てっ!」
赤里は思い出していた。必死になって。子供の頃の記憶を。
通路に入って、外に出られなくなったことは無かったか?
そんなドジを踏んだ奴なんて、たまにしか居なかった。そいつが生還したときに、何て言っていたか?
確か言っていたではないか。『人の振り見て我が振り直せ』と。
「確かぁ。下の方に『ボッチ』があってぇ?」「探せっ!」
腕を組んだまま『六萬』を鳴くか『九萬』を待つか悩むような仕草。随分と悩んでいるかのよう。
「開かないぞ!」「そこを両方で押しながらだなぁ」「そっちもだ」
そこで、虚空に向かって両手を突き出した。大物手のように振舞ってはいるものの、実態は上っても千三百なのに。
「開いたぞっ!」「何だ。簡単だったじゃん!」「だなぁ」
「あとは両方の扉をグイッとやれば。えぇっ? いつの間にぃ?」
目を開けて振り向けば、そこには長い廊下が続いていた。
誰もいない。しかし今度はそれが怪しい。何故なら、パッと見て『オフィスではない』ことだけは確かなのだから。
まるで、『未来にでも来た』かのような錯覚を覚える程に。




