アンダーグラウンド掃討作戦(二百九十七)
やいのやいのと議論が始まったが、結論は何も出ていない。
とりあえず、言い出しっぺの赤上が何やら器具を取り出した。
イヤホンを耳に突っ込んで? 針をブスッとやる。そして人差し指を唇に当てて『シーッ』とやった。集中するように下を向く。
意味は判らんが、一同取り敢えずは黙ることにして赤上を見つめる。静かにして『ココ』から出られるのならば、お安い御用だ。
『サピーザザザ』『かつ丼二つお願いしたいんですけどぉ』
『今出ました』『お前、いい加減にしろよぉ?』『ザピーザザザザ』
赤上の顔が『聞こえたっ!』に変わった。パッと見上げたのだ。
思わず『おぉ』とか言いそうになったのを、グッと堪える。
所が、直ぐに渋い顔になってうなだれてしまった。
それでも『何らかの情報』が聞き取れたのだろう。右手を右耳に当てて再び集中だ。
『厨房、ちゃんと回っているか?』
『はい大丈夫です。裏では最初からザピーザザザザしてますから』
「そうだったな。でも『出汁』は、しっかり取れよ?』
『勿論です。そっちのザピーも『良い感じ』になってますよね?』
『あぁ。問題ない。ペンギンもご機嫌で騙されている位だ』
雑音が多いのだろうか。赤上が首を傾げながらも、必死に聞き取ろうとして首を徐々に曲げ始めた。
『そうそう。正面玄関にM16を持った一団が来てますよ?』
突然、赤上の表情が変わった。顔を上げて目を見開く。もう一度『シーッ』とやって、見えないのに自分の右耳を見るかのよう。
聞こえない周りの者は、もう一度『やった』と無下に喜ぶ。
『何だぁ? アメリカ軍からの押し売りかぁ? 要らんぞって言え』
『違いますよぉ。日本人っぽい人達ですよぉ。来たら言いますけど』
『お前は人を『見かけ』で判断するのかぁ? もぉ良くない癖だぞ』
突然赤上が頷き出した。会話の内容に同調しているようだ。
『いや、ちゃんと受付で記名して、『入館証』貰っていますからぁ』
『ほう。じゃぁ日本人で間違いないな』『どういう見分けなんすか』
赤上の表情が苦笑いに変わった。肩を竦めている。
『こっちは大佐が控えてるから大丈夫だ。そっちに行ったら逃げろ』
『そんなぁ。逃げろって言ったって、何処へ(ガチャッ)』
赤上が顔を上げた。ニッコリと笑っている。どうやら『有益な情報』が掴めたようだ。器具もしまってしまったし。
「何か判ったか?」「どうなんだ?」「うーん」「腹減ったなぁ」
「お前『うーん』じゃ判らんだろっ!」「結局出られるのかぁ?」
赤上は腕を組んで考え始めてしまった。首も傾げる。
他の五人は何も情報がないのだ。じれったくなってしまうのも判る。しかし情報を得た赤上にも、何ら確証はないのだ。
「どうやらだなぁ。この線を辿って行けばぁ」「おう」「行けば?」
急いでいるのは判っているのだろうか。あと五行だぞ?
「何か『田井さんが控えている』とか?」「はぁぁ?」「誰だそれ」
「違うなぁ。『鯛、佐賀、控え、照る』かなぁ?」
「おい。『鯛』って、佐賀県の名物だったかぁ?」「佐賀ねぇ?」
「いやぁ? 明石じゃねぇの?」「明石って神戸の?」「そうそう」
「ちげぇよ岡山だよ。神戸県なんて無いべぇ? 何も知らねぇなぁ」




