アンダーグラウンド掃討作戦(二百九十三)
四人がエレベーターシャフトに上がった所で、あと二人。
ドアを開けようとする幾多の者達と、それを防ごうとする二人がせめぎ合っている。その二人が顔を見合わせた。
「お前が残れっ! なっ!」「えっ? 俺なの?」
さっきまでの『仲間意識』は何処へ。右側にいた赤右が勝手に持ち場を離れた。素早い判断だ。何の迷いも躊躇もない。
そして、天井から伸びる仲間の手を目掛けてジャンプする。
「ふざけんなっ! 俺が先だぁっ!」
時間にして僅かな差。左側にいた赤左も動き始めていた。
手を伸ばしている赤右の肩に左手を置き、支えにして右手を伸ばす。同時に渾身の力を込めて飛び上がった。
「ぐへぇっ!」「早くしろっ、良しっ! 掴んだ引き揚げろっ!」
グッと伸ばした赤左の右手を、上にいた赤上が摑まえる。
エレベーターの籠外には、先に上がった仲間が控えているのだろう。掴んだ赤左の右手を思いっきり引っ張り、スルリと上がる。
それと同時に、エレベーターの扉が支えを失って開いた。
「来るなぁぁっ!」「開いたぞぉっ!」「どけぇっ!」「ムギュゥ」
赤右は反省なんてしていない。完全に赤左を恨んでいた。
目の前に押し寄せる一団を前にして、立ち上がることさえ出来ずに。このまま押し潰されてしまうのだろうか。
大体『来るな』と命令して『はい判りました』となることは稀だ。
戦場でもそう。会社でもそう。ましてや、自由に『情報処理』しても良い現場に於いて、『来るな』は『来て』と同義なのだ。
であるならば、ここエレベーターホールでもそうであるはず。
しかし赤右の希望に反して、目の前の一団は赤右の本心を感じ取ったのか、誰一人として殺到しようとしない。
文字通り『殺しに来ている』はずであるにも関わらずだ。
「赤右! 今の内だっ! 早くしろっ!」
仲間の声に、赤右は我に返った。仲間が正確に『赤右』と名前を呼んだのも功を奏したのかもしれない。いつもなら『赤石』と間違える癖に。こんなときだけ間違えないとは。いつもは、わざとか?
エレベーターのドアには『我先に』といがみ合う社員が、大量に挟まっていた。満員電車の四倍は押し掛けているだろう。
僅か数十秒の『ドア前攻防』の結果、同じ社員としての『協調性』はおろか、『謙譲』の気持ちさえも吹き飛んでしまっている。
それは、醜い人間社会の縮図を表現した『芸術』とも言える光景だが、当の本人達はそれに気が付いてもいないのだろう。
騒ぎ立てて尚、目の前にある果実に固執する醜態を晒して。
赤右が立ち上がって腕を伸ばし、エレベーターの上に消えるのと同時だった。バランスを崩して雪崩れ込む。ダムが壊れたよう。
一番前の奴は床に転がり込んでいた。その上にも人が折り重なる。
『ブーッ!』「おい降りろっ!」「デブは誰だっ!」「臭いぞっ!」
重量制限のブザーが鳴り出した。確かに『満員』であろう。
そこへ、普段なら『思っているだけ』で、決して口にはしないであろう暴言が放たれる。エレベーターは一気に修羅場へと化した。
「やりやがったなぁ!」『ブーッ!』「お前が最後d、(グヘェ)」
折り重なった所に、更なる後続が容赦なく押し寄せる。




