アンダーグラウンド(八)
「バーン!」
黒田が悪戯っぽい顔で、右手を拳銃の形にして弾く。
黒井は動かない。顔を強張らせて、そのままだ。固まっている。そんな様子を笑顔で眺めながら、黒井はトラックの荷台から降りる。
「よいしょっとー」
足元に気を付けて降り、トコトコと黒井の隣にやって来た。黒井は横目に黒田を見る。
「だ、大丈夫、ですよね?」
隣に立った黒田を見て、黒井が聞く。汗が流れ落ちている。
「いや、ダメだと思うよぉ」
そう言って、黒井を見て笑った。黒田は両手を挙げることもなく、笑顔で黒井と、ASー15(イチゴちゃん)を交互に見ている。
黒井はそんな黒田の様子を横目に見て、これは絶対、からかわれていると、確信した。念のため、もう一度聞く。
「だって、黒田さん、平気じゃないですか!」
言われた黒田が、「あ、気が付いた?」という顔をしたので、黒井は肩の力を抜き、両手を下げる。そして黒田の方を向く。
『ケイコク! ウゴクナ!』
目が光った。黒井は驚いてASー15(イチゴちゃん)を凝視した。恐怖の余り、一歩後ずさりすると、追随して向こうも少し前に出た物だから、黒井は観念する。
悟った。完全に、『殺る気じゃないか!』
再び黒井は気を付けの姿勢になり、両手を手をあげた。
『テヲアゲロ!』
黒井の方が早かった。それを見て、黒田が笑う。黒井は混乱していた、何故黒田は、平気なのか。
そんなことを思っていると、黒田がポケットからキーを取り出した。見覚えがある。河原でチラっと見せた、あれだ。
「停止!」
黒田がそれをASー15(イチゴちゃん)に向けてボタンを押すと、光る目が段々と消灯してゆく。
「大丈夫ですか?」
もう一度黒井は、黒田に確認する。黒田は相変わらずだ。
「うん。大丈夫だよ」
そう言って、キーをポケットにしまった。しかし黒井は、黒田を信用できない。絶対に、まだ何かを隠し持っている。
現に、ポケットから、手を出さないでいる。怪しいよ。
「なーんちゃって! てのは、無しですよ?」
強めの口調。そう言われた黒田は、「あ、バレた?」という顔をしたではないか! 黒井は、いい加減にして欲しかった。
「ちょっと、黒田さん!」
段々腕が痛くなってきた。マジで、冗談はやめて欲しい。
「大丈夫だって。何なら、俺が盾になってやろうか?」
そこまで言われて、黒井は確信する。今度こそ、大丈夫なんだろうと。黒田の目は真剣だ。
が、しかし、思う。良く見ろ。あんなでっかい銃にぶち抜かれたら、黒田なんて、盾にもならないだろう。
それでも、黒田がポケットから手を出し、顔の横で左右に回転させている。幼稚園児の遊戯かっ!
黒井は溜息を吐いて、腕を降ろした。その時だ。
再びダンボールが、宙を舞う。『バーン!』という乾いた音がして、見覚えのあり過ぎる金属の棒が二本、その中から現れる。
いや、棒じゃない。腕だ。黒井は思わず、右足を後ろに引き、左手を顔の前に出して、防御姿勢を取る。
そんな姿勢が、何の役にも立たないことは、十分理解しているつもりだ。直ぐに両手を挙げ、それを凝視して、隣を見る。
にやけている黒田を、怒りと共に睨み付けた。
『ブラック・ゼロヘ、ヨウコソ!』
「二機でしたぁー。こっちはね、ちゃんと武装してるの!」
黒田が、凄く嬉しそうにしている。黒井はぶん殴ろうと思って、右手を握りしめる。が、辛うじて黒田の言葉を理解した。
「え? マジ? ちょっと!」
絶対コイツ、ぶん殴る! 黒井は、手を挙げたまま決意した。しかし黒田は、そんな気配を感じたのか、にこにこしながら黒井を置いて、歩き出す。
「えっ! どこ行くの! 黒田さん! ちょっと! じじいぃ!」
黒田は、黒井と打ち解けたと思ったのか、「ヒヒヒ」と笑って、黒田を指さすだけだ。
「くっそじじぃっ! 戻って来いよっ!」




