アンダーグラウンド掃討作戦(二百九十)
机の上でバタバタしていたら、またパソコンを壊したらしい。
「放せこの野郎っ!」「いてぇっ」『ガチャン!』
そこへ、戻って来た赤里が蹴りを繰り出す。男の右手に当たった。
すると掃除機を机上に落とし、男は机から転がり落ちてしまったではないか。腕を蹴られた位で何だ。だらしない。
しかし、そうも言ってはいられない。放たれた掃除機と共に、赤桐もまた机の上に崩れ落ちた。
それでも、こちらは腐っても戦闘部隊である。
かなり食い込んでいるようにも見えるが、掃除機のコードが首に巻き付いた位で意識を失ったりはしない。
「くそっ! 取れないっ!」「そのまま走れっ! 行くぞっ!」
室外機を持って後を追っていた男が、巻き添えを食って床に転がっている。どうやら室外機の中に、冷媒が仕込まれていたようだ。
倒れた衝撃で漏れ出た冷媒が『シューシュー』と激しく音を立てているが、不思議なことに苦しくも何ともない。何だこれ?
「おいお前、これっ! フッ、フロンガスじゃねぇかっ!」
「ちょっと待てぇいっ! 今時、何処から仕入れて来たんだっ!」
何やら大騒ぎになりつつある。レッド・ゼロの三人を放置して。
顧客と電話をしていた社員が『強制終了』したのが判った。そして急いで画面を切り替える。『顧客情報』の画面が消失して、ちらっと見えたのは『炭素取引』の相場と市場を表す画面だ。
「排出権を『買い』だっ!」「売りに出てんのを買い占めろっ!」
怒号が飛び交う現場を後に、首を傾げながらも走り出した。
どうもこの会社は、良く判らないことだらけだ。
広いオフィスには『オペレーター席』がズラッと並んでいる。
現場から少し離れた所では、『我関せず』なまま業務が続行されていた。そこへ『監督官』がやって来る。
どうやらトラブルが長引いているのか? 電話が中々終わらないので、様子を見に来たのだが、首を傾げて溜息だ。
「はぁぁ。山田くぅん。何で『将棋』しているのかなぁ?」
将棋盤を見つめていた山田が顔を上げた。言われた山田も首を傾げる。こっちも不思議そうな顔だ。机の将棋盤を指さした。
「あぁ、主任。見て判りませんか? 『崩し将棋』ですよ?」
「いやいや、そうじゃなくてぇ。て言うか、一人でやってんの?」
仕事中に『遊んでいる』と確信しての詰問なのだが、山田は『フッ』と子馬鹿にしたように息を吐いた。どうやら本人曰く。『仕事中』らしい。主任は知らないのかと言いたげに。使えねぇ主任だ。
「対戦型の崩し将棋ですよ。知らないんですかぁ?」
「えっ? 対戦型って、誰と対戦しているの?」
両隣は電話中。席にある将棋盤は『リアル世界』の物だ。金玉が重なり合って、今まさに盤上の隅まで移動している。
「もぉぉ。ネット対戦に決まっているでしょうがぁ!」
「いやいや無理でしょ」「無理じゃねぇすよ!」「いや無理だって」
「もぉぉっ! 今週発売したでしょうよぉぉっ! Ver3.2!」
机を『ドンッ!』と叩いたからか、金がパタンと倒れてしまった。
「あぁぁっ、金玉がぁっ!」「なっ、何かごめぇん」『キュイーン』
すると、設置されていた『3Dスキャナ』が、高速で動き始めた。




