アンダーグラウンド掃討作戦(二百八十九)
決死の覚悟で三人はオフィスへと侵入する。
こんな『変な奴ら』が溢れているオフィスなのだ。かなり気合を入れたつもりだった。それがどうだろう。何だか拍子抜けだ。
誰もM16を持った三人を覗き見たりしない。黙々と仕事をし続けているではないか。追い掛けて来た奴らとの違いとは?
パッと見て、彼らは電話でもしているようだ。
頭に装着したヘッドセットは『受話器』なのだろう。パソコンの画面に向かって何やら頷いたりしている。
どうやらここは『コールセンター』なのか。だとしたら『仕事に夢中』なのも納得だ。きっと気が付いていないのだろう。
兎に角、レッド・ゼロの三人はオフィスを走り始めていた。
「いやお客様。裏帳簿が作れない会計ソフトなんて、あり得まs」
『ドンッ!』「うわっ!」「あっ、失礼!」「通りますよー」
何やら話の途中だったみたいだが、机の上に飛び乗ったものだから、通話が途中で切れてしまったみたいだ。
一応謝ったのだが、必死にキーボードを操作しているだけで、全く何が起きたのか理解していなさそう。
その後に『掃除機』を持った男と、エアコンの『室外機』を持った男が通り過ぎたのだが、それすらも目に入っていない。
「サービス残業の相殺には架空の社員を雇いましてぇ。えぇそうd」
『ガンッ!』「あれ、お客様? まだ労務局への賄賂についての!」
机を飛び越えて着地した所で、またパソコンをひっくり返してしまったのだが、オペレーターは電話が切れた理由が判らないのか?
「ごめんなさいね!」「コンセント攻撃っ!」「うわぁっ!」
謝っている間に『掃除機の電源ケーブル』が伸びて来て、赤桐の首に巻き付いていた。思わず片手を首にやる。気道の確保だ。
掃除機に、一体どのような改造を施したら『今の状況』になるのだろうか。残念ながら誰も見てはいなかった。
右手で本体の取っ手、左手で吸込口を持っている。電源ケーブルは本体の一番端からシュルリと伸びているのだ。はて、確かに。
『ブオォォォォッ!』「おりゃぁっ」「なっ?」
気合一発。男は掃除機の電源をオンにしていた。確かに電源ケーブルは赤桐の首に巻き付いているのに。バッテリー搭載型?
それでいて電源ボタンは左手の手元には勿論、本体にもあるではないか。確かに兵器にも『利便性』は重要。こやつ、出来る男だ。
赤桐はM16で吸込口を防ぎながら、冷静に観察していた。
しかし『掃除機の性能』としてはどうなのだろう。何となくだが、吸込口から『空気が出ている』ようにも感じられる。仕様?
さっき『カツラが取れた』と、揉めていたのではないのか?
だから『風向を逆にしたまま』なのか? 判らない。男は自信たっぷりに吸込口から空気を出したまま、M16と対峙している。
「死ねぇっ!」『キュルルルルッ!』「ぐっ! んがぁぁっ!」
男が余裕綽々なのには、やはり理由があったようだ。
電源コードが強烈な勢いで巻き付いていた。首がどんどん締まる。
「赤桐!」「ググッ!」「『強』の威力を思い知れっ!」
なんと本体にあった赤色の『強』ボタンは、『巻き取りの強さ』だったらしい。何とも油断出来ない仕様だ。赤桐の顔はその色に合わせてなのか、どんどん赤くなっていく。机上で暴れ出した。
「締まりが? あぁ、お客様のドールは耐久値が限界です。使いs」




