アンダーグラウンド掃討作戦(二百八十八)
男が繰り出した『釘バット』は、武器として果たして役に立つのだろうか。元々振り回すのに適した形状。材質も様々。
もし役に立つのだとしたら、陸軍でも正式採用されるかもしれない。そのときの型番は『KGB』。あっ、何かダメかもしれない。
本部長だからこそ『即ボツ』にしたのかもしれない。
しかし男は、本部長の真意を理解してはいなかった。
根拠のない『言葉だけ』だと思っていたからだ。
実績を積みさえすれば『陸軍』だけでなく、『京都のお土産屋』にも売れるかもしれない。その可能性は捨て切れないと言うのに。
しかし、やはり『釘バット』は『木刀』の変わりにはなり得ない。
理由は簡単だ。『木刀』なら職務質問されても、まだ『お土産』と言い逃れすることも出来るだろう。
学ランのホックをキッチリはめて、ニッコリ笑っていれば、だが。
では『釘バット』はどうだろう。まさか『甲子園を目指しています』と説明した所で、信用はしてくれまい。何しろ甲子園が京都に無いのは勿論、終電が終わっている時間帯なのも明らかなのだから。
つまり、京都のお土産屋で購入した時点で百十番。
『お巡りさん、こいつです』
と、なってしまうのは必定。それでは一本たりとも売れまい。
男は、ある意味『一途』だったのかもしれない。釘バットの手触りが『しっくり』来る。そんな想いを伝えたかったのかもしれない。
それとも『木刀が買えなかった』苦い思い出か。八つ当たり?
「危ないだろっ!」『バキッッ』「俺の釘バットがぁぁっ!」
M16の銃床で軽くあしらわれただけ。夢は簡単に砕け散った。
釘が深くバットに突き刺さるに従い、バットの木目に沿って砕けてしまったのだ。それだけではない。
「どけこらぁぁっ!」「おぅわっ!」「寝てろぉ」「ぐへぇっ!」
感傷に浸る間もなく、後ろから来た同僚に膝蹴りされてつんのめり、更に後から来た女子社員にまでヒールで踏まれてしまう始末。
もう『釘バット』のことを、覚えている者は誰もいない。
そう。本部長は最初から知っていたのだ。『釘バット』が武器として、全く役に立たないことを。
いや『釘バット』だけでなく『バット』もだが。
そんなの素手でポキンと折れてしまうのは重々承知の助。精々野球にしか使えない代物だと言うことを。
何だったら『釘だけ』の方が、四倍はマシだ。
フォーメーションAが『掃除機』と『炊飯器』の波状攻撃で崩されそうになった瞬間だった。一番端にいた赤胴がドアを開ける。
オフィスの中へ、一旦逃げ込もうとしたのだろう。その様子を横目に捉えた赤嶺だが、視界が『緑色の物体』で塞がれる。
何と、それは一カ月もの間、炊飯器で熟成された『ごはん』だったのだ。強烈な臭いに加え、ベトベトした感じも気持ちが悪い。
最早『化学兵器』の域に十分到達している感もある。
勿論『ごはん大好き』な本部長は、『即ボツ』と判定した。幾ら戦争と言えど、主食たる『ごはん』をそんな風に使っては『企業のリテラシー』が疑われる。イメージダウンだ。
「赤嶺っ!」「臭っ! 奴は駄目だっ!」「仕方ない、行くぞっ!」




