アンダーグラウンド掃討作戦(二百八十六)
割れたのは水鉄砲の『水タンク』だった。そんな『水鉄砲』だからこそ『ボツになった』とも言える。
薬品と共にガラスの破片までもが飛び散って、廊下にぶちまけられてしまった。当然のように、男の顔にも掛かったのだろう。
『ガラスじゃなきゃダメなのか?』『はい。プラだと溶けます』
本部長が即座に『ボツ』を宣言したのも頷ける。
こんなの戦場で使える訳が無い。味方にも危ないではないか。
しかし男は『薬品の取り扱い』には長けていたのだ。極寒から酷暑の環境でも品質に変化はなく、長期保存が利くように調合した。
唯一の弱点は『ガラス容器でないと保存できない』ことだけ。
消えゆく意識の中で、男は『新しい化学式』についてヒントを得ていた。濃度を濃くすれば、ガラスさえも分解できるのでは?
「親の仇っ!」「ぐへぇっ!」
足元に転がった『同僚の後頭部』を踏んで、一歩飛び出した奴。
これが『俺の屍を超えて行け』を地で行く姿だ。本人がそう言ったかは別として。いや、まだピクピクしているから『屍』に非ず。
もしかしたら、今の『後頭部の踏み付け』で屍に相成るカモ葱。
「お前の親なんて知るかっ!」「おいこら待てっ!」
M16を持った男が『お風呂のアヒル』から逃げ惑う。
実にシュールだ。現実に『そんな戦場』があったなら、少しは和むのだろうか。もしかしたら、子供と楽しく入浴した『平和な日々』を顧みるのかもしれない。いや、それにしては大きすぎる。
きっと『ボツ』の理由としては、『兵器としての大きさ』に違いない。何しろ抱えて持つと、顔が見えない程のサイズなのだ。
赤桐も赤嶺も目にした『お風呂のアヒル』が、絶対に『ヤバイ物だ』とは思っていた。後から続く一団が、それぞれ『何やら変な物』を持って迫り来る。全員の目が怖い。『ゾンビ』の方が百倍は楽だ。
その先頭を突っ走って来る『つぶらな瞳』を目にしたとしても。
すると、反対側の扉が開いた。完全に挟まれたか!
いや違う。まだ向こうを向いているから、ある意味『セーフ』。
と、足音に気が付いてこちらに振り返った。最悪だ。
理由は判るだろう。当然のように『後ろから迫る奴ら』と同じ目をしているからだ。手にはまたまた『謎の物体』である。
もう一度振り返ってみても、後ろの状況に変化なし。迫る『お風呂のアヒル』だ。止まったら追い付かれてしまう。
前の相手は一人。このまま突っ切るのみ!
が、見えていた男の表情が、突然苦悶に変わる。後ろから大挙して現れた一団に、廊下の壁へと押し付けられたのだ。
これが文字通り『出世争い』と言う奴なのだろう。会社とは、こうも人と入とが『助け合えない世界』なのだろうか。無職万歳!
すると突然、赤桐の背中に激痛が走る。まるで『コンクリート』のような重量物が投げ付けられたような? もしかしてそれだけ?
背中に当たって足元に転がった『黄色い物体』からも、見掛けに寄らず『ドン』という鈍い音が響く。思わず顔が歪む。謎だらけで。
「俺がナンバーワンだっ!」「判ったからどけっ!」「おわぁ!」
赤桐の眼前で、『お風呂のアヒル』を投げた奴が弾き飛ばされている。今度は『掃除機』を持った奴が先頭か。勘弁してくれぇ!
痛みが残る背中を擦りながら、赤桐と赤嶺は姿勢を低くした。




