アンダーグラウンド掃討作戦(二百八十二)
「これ、『血』付いてませんか?」「開いたら直ぐにどぞー」
聞いてもまともに答えやしない。セキュリティゲートは相変わらず動きが速い。シュっと開いて通り過ぎると、シュっと閉まる。
結局黙々と全員が通過した。勿論、一人づつに決まっている。
エレベーターホールに向かうと再び『ピッ』とやる機械があった。
お姉さんのキャラクターが『入館証をかざして下さい』と読み取り装置を指し示している。流石に機械的なキャラクターだ。
目が怖くなったり、バタフライナイフを振り回したりはしない。
当然のように、誰が『ピッ』とやっても行先は『情報処理課』と表示され、後はエレベーターが来るのを待つばかりのようだ。
このビルにやってきた『ハーフボックス』は、所謂『新型のエレベーター』である。ロープ吊り下げ式ではなく、歯車で上下する。
上下ばかりでなく前後左右にも移動ができ、エレベーターホールにせり出して『垂直通路』を空けると、追い越しも可能。
お陰で『一本の通路にエレベーターの籠が一つ』ということはなく、幾つもの『ボックス』が動いているという訳だ。
『ハーフボックス』は約一畳の大きさで、『フルボックス』は一坪の大きさである。そしてロープで吊り下げされている『普通のエレベーター』も、実は共存しているのが大きなビルの特徴だ。
使用目的は主に『荷物用』であるが、まぁ大人数がまとまって移動するときに使用される。出番が無いときはビルの最上階で待機。
シュルシュルと下に降りて来ると、ロープが通路を塞いでいるので、『ハーフボックス』はその部分を通過出来ない。
『チーン!』「おっ、エレベーターが来たぞ」「全員乗れそうだな」
八人が同時に乗り込んだ。ドアが閉まると、直ぐに上昇を始める。
「受付のお姉ちゃん、怖かったなぁ。銃で全然驚かないしさぁ」
「馬鹿お前、危ねぇことすんなよ。死ぬかと思っただろうがぁ」
「えっ? 何でこっちが死ぬんだよ?」「見てなかったのかぁ?」
受付嬢を銃で脅した奴は、周りの奴らに責められている。当然のように『全然?』と肩を竦めているではないか。呆れた奴だ。
「『火炎放射器』がさぁ、スタンバってたじゃねぇか」「マジィ?」
「お前、上を見なかったのかよぉ。前後にあっただろ」「うぞっ!」
「嘘じゃねぇよ」「あれさぁお姉さんが『ペダル』とか踏むんだよ」
「そしたら『ボォォォッ!』てなって、丸焦げよぉ」「こぉわっ!」
「さっきのゲートも『血のり』付いてたけどさぁ」「あったあった」
「受付の周りも『焦げている所』あったもんなぁ」「あったあった」
「マジかよ。良く見てんなぁ」「お前だけだよ!」「死ぬぅぞぉ?」
無事に通過したから笑っていられるものの、受付嬢の『気分一つ』でどうなっていたか判ったのもじゃない。NJS。恐ろしい会社。
しかし彼らは、本当に判っていなかったのも確かである。
確かに誰かの予想通り、受付嬢の足元に『ペダル』はあった。
それは『火炎放射器』を起動するものではなく、アンダーグラウンドへと落ちる『落とし穴』を開くためにものだ。
受付前の床が『パカン』と開いて、三十メートル程自由落下することができる。大丈夫。どちらにしても命はないのだから。
『輝く明日を作るため。えぬじぇいえーす♪』
エレベータ内には、小さな音で『社歌』が流れ続けている。
勿論誰も歌えない訳だが、実はこれも『セキュリティ対策』の一環である。誰も歌わないと『情報処理課』へとまっしぐらだ。




