アンダーグラウンド掃討作戦(二百七十七)
『百二十番から百二十五番、電源断まであと三分』
「省エネ回路開放、再飛翔に向けて不時着できる場所を探索!」
『省エネ回路開放。百二十番から百二十五番。これにより、あと』
「予備バッテリーも使って良いんだからねっ! 緊急事態!」
薄荷乃部屋は忙しくなっていた。
スクリーンに映し出されている部隊表。その『母機』を示すナンバーが『空白』になっているの子機の数が増え続けていた。
母機の数字が表示されていても、賑やかに『赤点滅』しているのも実態は同じだ。帰るべき母機が消滅した状態を表している。
操作手順は簡単だ。マニュアルの『戦闘が始まったら』にある、『母機の調子が悪いとき・または使えないと疑義ありのとき・認めたくなくても明らかな全損であるとき』の『振替手順』の通りだ。
まず『赤点滅』を発見したら、子機のシリアル番号を指定して、『解放コマンド』を投入する。『解放します。よろしいですか? はい/いいえ』が出たら『【全角】【ひらがな】はい』投入。
まぁ、三秒もあれば出来るだろう。
で、そうすると『解放すると路頭に迷うかもしれませんが、本当によろしいですか? YES/NO』が出て来るので、以下略。
あと三回警告が出るので、根気よく答えれば良い。
今日『初参戦』の千絵はもう諦めていて、朱美に任せっきりだ。持参した歌舞伎揚げをポリポリと食べている。
朱美に『食べる?』と出しても、秒で断られているのを見ると、手がベトベトになっているのに気が付いていないようだ。
仕方ないだろう。朱美は、残っている母機の中から『子機の空きあり』を探しているのだ。
ズラリと並ぶ『母機の一覧』は、戦闘が始まってしまうと番号順には並んでいない。隊列を組んだ『班番号』が並び順の第一キーとなるので、目指す母機の番号は入り乱れてしまうのだ。
それを目を皿にして探している最中に『歌舞伎揚げ』が目に入れば、皿も割れてしまうと言う訳だ。残念。
朱美の『おやつの時間』は、暫く来そうにない。
「結局我々が操作するなら、『オプション』入れましょうよっ!」
堪らず声を上げたのは、上長承認を行う立場の富沢部長だ。しかし高田部長の声は冷たい。
「駄目だ。お客様が見ているんだから、手順通りにやるんだ!」
ここで正論。さっきからそればっかり。全く。紅茶を飲んでいる場合じゃない! 埒が明かないと思ったのか、更に大声で怒鳴る。
「パパァッ! もう、何とかしてぇぇっ!」
すると、青ざめたのは大佐である。悲痛な叫び声が、まるで大佐に向けられたかのようだったからだ。覚えがない。全く。
思わず『私ですか?』と自分を指さしたのだが、次の瞬間目の前が真っ暗になっていた。あぁ今日は何しに来たんだっけ……。
「良し。全オプション開放! 請求書発送用意っ!」
鶴もとい。本部長の一声で全オプションの開放成る。
この時の為に用意した『3D映像と音楽』が大音量で流れ始めた。
『契約書第七百三十一項・緊急時全オプション開放に掛かる請求書を発行します。発番まであと三十秒。カウントダウン開始。十・九』




