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アンダーグラウンド掃討作戦(二百七十四)

「おい、『ドンパチ』の様子はどうだぁ?」

「大分混乱しているみたいだなぁ。おい、俺の分、残しておけよ?」

 返事はない。机の上に足を乗せ、椅子に寄り掛かって体を揺らしている。ダランと伸ばした手の先には酒瓶が一つ。

 こちらも一緒に揺れているのだが、時折口元へ持って来ては『グビリ』とやってまたダラリと揺れる。


 無線を聞いている男と、分ける予定だったのだろう。

 気持ち良さそうに揺れながら『判ってる判ってる』と頷く。が、しかし、絶対に判ってはいなさそうだ。また一口飲んで、あれ?


 出て来ない。酒瓶の下の方を覗きながらブラブラさせる。

 するとさっきまで『チャプチャプ』と心地良い波の音をさせていた酒がない。今はすっかり男の血液になってしまったようだ。


「あれぇ? 全部飲んじまったよっ! 悪りぃ悪りぃ」

 空になった酒瓶を無線の方にブラブラさせ始めた。

 態度といい、言い方といい、絶対に悪いなんて思っては居まい。


「何だよ。ふざけんなよっ! 俺が見つけたんだからなぁ?」

「まぁまぁ。お前は無線の方が好きなんだろぉ? ほれっ!」

 空中に放り投げる。すると無線を聞いていた男が、パッと拳銃を構えると狙いも定めずに撃つ。


『バァァン!』『パッリーン』「ヒューッ♪」

 見事命中だ。放り投げた方が口笛を吹きご機嫌だ。

 その上、『誰でも出来る』とでも言いたげに、子馬鹿にしたような、大げさでゆっくりと拍手をしながら起き上がる。

 机の上から足を降ろし、『さてと』とテーブルに両肘をつこうとしたそのときだ。驚いて、その両手を真っ直ぐに上げた。


「おいおい。何だよ。冗談だろう?」

 一発撃ったリボルバーの銃口を、こちらに向けている。

 そんな物を向けられては、酔いも覚めると言うものだ。


「果たして、冗談かなぁ? (カチカチカチ。カチーン)」

 リボルバーがゆっくりと回転して次弾が装填される。当然弾は入っているだろうし、この距離では外す方が難しい。

 二人はきっと仲良しなのだろう。見合わせた二人の笑顔が、実に眩しいではないか。そのまま無言で固まること三秒。


「なんちゃってぇ」「何だよ。今度見つけたらお前に譲るからよぉ」

 三秒が長く感じたかどうかは、互いの信用次第だ。だとしたら、二人共、なっがぁぁぁく、感じたに違いない。


「赤井の奴、何とかなっているみたいだなぁ」「へぇ。意外だなぁ」

 再び無線に耳を傾けながらも、今度は机の上にある地図を見る。

 そこに書き込まれているのは、無線を傍受して得られた情報をプロットして行った内容だ。勿論無線だけでなく、ネットワークに割り込んで得られた情報もある。


「陸軍が同時侵攻してきたのを、蔵前橋通りで止めたらしい」

「あんなの、どうやって止めたぁ?」

 地図を睨み付ける。『蔵前橋通り』なんて、丁寧に書かれてはいない。隅っこに『K→』と略されている大通りがそうだ。


「Cー4だろぉ?」「ブラック・ゼロのかぁ?」「あぁ」「ふーん」

 予想が当たっても、ちょっと詰まらなさそうに頷く。

 二人の恰好、どう見ても『陸軍』ではないのだが、かと言って口ぶりから『レッド・ゼロ』でもなさそうだ。


「ドッカーン。ドッカーンてかぁ? デカい音したもんなぁ」

 転がっていた鉛筆を拾い上げると、何もない大通りに『爆発』の絵を描き始めた。実際の『爆発音』と数は合っていない。適当だ。

 つまらなそうに再び鉛筆を地図上に転がした。両手を頭へ乗せる。

 窓はしっかりと板で塞いであり、机上に置いたLEDランプの明かりが無線男の陰を映している。

 外は見えないが隙間から入り込む緩い風が、時折埃をゆっくりと舞い上げる所を見ると、窓ガラスはないのだろう。


「それで一旦下がった所に、赤山隊が敵本部に突入と」

 無線男が転がっている鉛筆を拾い上げると、中学校跡地に強い調子で矢印を描く。ついでに簡易的な『ロボの絵』を書き入れた。


「赤山の爺さん、美味しい所、持って行きやがったなぁ?」

 無線男が転がした鉛筆を拾い上げると、赤山の似顔絵を描く。

 それ見た無線男が笑顔になる。『似ている』と思ったのだろう。


「NJSの本社にも、突撃隊を向かわせたらしい」

「良くやるなぁ。あぁ俺も、『そっち』なら、行けば良かったなぁ」

「えぇ? そうかぁ?」「地上に出られるんだろう?」

「判んねぇぞぉ?」「じゃぁ行かねぇ」「ぶっ、何だよ」「えー」


 どうやら『赤井の作戦』に不満があった奴らなのだろう。

 どさくさに紛れて敵前逃亡したのか、それとも脱退したのかは知らないが、命惜しさに陰でコソコソしているだけのようだ。

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