アンダーグラウンド掃討作戦(二百七十三)
赤山は司令官の赤井が気に入らない。だからと言って『後ろから刺しちまうか』とまでは思わない。
仮に司令官を決めるが『決闘』だったならば、迷わず参加していただろう。司令官の地位に、何ら魅力は感じられないが。
「隊長ぉ、もしかして、もう終わっちまいましたかぁ?」
敬礼を解いて、赤星は辺りを見回した。最初に聞こえていた激しい銃声も何処へやら。聞こえて来るのは、時折『パァァン』という単発的な銃声と、何やら助けを乞う情けない声ばかりだ。
「まぁ、大体な。お前の分、取っておかなくて、悪かったなぁ」
赤山は付近を見回した。両手に持っている拳銃は、確か出発したときには持っていない奴だ。きっと召し上げたのだろう。
「そうですよ隊長ぉ。弾倉余りまくりですよぉ」
腰に差し込んだ弾倉をチラっと見せて、赤星は思わず苦笑いだ。
赤山もそれを見るなり『済まなそう』にしている。
どうやら赤星は最初の弾倉も、まだ使い切っていないらしい。
それは悪いことをした。奴は一人殺ったくらいでは、とても満足なんてできないだろう。そう思えばこそ、決断は早い。
両手に持っていた拳銃の内、右手の奴をクルンと回す。
「これ、そこで良いの貰ったから使ってみぃ? 弾、まだあるし」
持ち手を上に揺らしたのを見て、赤星は直ぐに一礼した。
「ありがとうございます! 良い銃ですねぇ」
嬉しそうに手に取ると早速狙いを定めた。
あげた方の赤山は満足気に頷く。
ピタッと狙いが定まって、手にしっくりと馴染んでいるようだ。なかなかに決まっている。銃口の向きは『副本部跡』だ。
きっと装甲車の『車検証』でも、狙っているのだろう。
「バァーン! なんちゃって」「あはは。気を付けろよぉ」
おふざけで撃った振りだ。赤山にもそれが『冗談』だと判る。
何故なら人差し指を真っ直ぐにしていて、トリガーに引っ掛けていなかったからだ。落ち着いて良く見ている。
「それなぁ、随分『ソフトタッチ』にしてあってなぁ?」
拳銃を人差し指で指してから、何度も折り曲げて見せる。
「へぇ。そうなんですかぁ」「俺の好みじゃないから、やるよ」
赤星は素直に嬉しい。生粋の殺し屋と言われた赤山が、『拳銃のトリガー調整』くらい出来ないはずがない。単なる言い訳だ。
「早撃ちの隊長が言うんだから、どんなもんなんですか?」
今度はトリガーにそっと指を添えて構える。狙いもバッチリだ。
初めて使う銃なので、癖も何も判ったものではないが。
「気を付けろよぉ? あぁ、所で、電源車は確保出来たのか?」
赤星は装甲車の『車検証』に狙いを定めていた。そこへ赤山から報告を求められたのだが、赤山にも狙いが判っているのだろう。
一緒に眺めているので、赤星は構えたまま報告だ。
「あぁ、あれですね。拠点に運ぶように言って来ました」
『ドガーン!』「うわっ」『バーンッ!』「おぉっ?」
左手に持っていたM16で、赤星が北を指したときだ。その方向から大きな火柱が上がって、爆音と共に付近が明るくなった。
物陰からレッド・ゼロの仲間達が『何事か』と顔を出す。やはり生き残った奴らは、全員悪そうな顔ばかりだ。戦闘の度にか?
装甲車の奥から出て来た仲間が、割れたフロントガラスから外を見上げている。『額を撃ち抜かれた敵兵』を足蹴にしながら。
二人は最初から光源の方を見ていた。顔を見合わせて肩を竦める。
「もしかして、あれかぁ?」「ありゃぁ、そうかもしれませんねぇ」
絶対『YES』に決まっている。それでも戦場に『不確定要素』は付き物だ。あの付近に『仲間が居ない』ことは誰にでも判る。
敵が『味方の電源車』を発見して、『何故に攻撃したのか』を考える必要は、今は全く感じられない。
手順一。『誰だあいつっ!』と気が付く。
手順二。『止まれ』と注意する。
手順三。『止まらないと撃つぞ』と警告する。
手順四。『うわぁぁっ! 撃て撃てぇ』と警告、いや命令する。
手順五。『ドガーン!』と爆発する。
そんなことを考えているより、今は兎に角『逃げるが勝ち』である。どちらにしても、これで『戦闘終了』とはならないだろう。
何しろこいつら『ロボット』は、バッテリーが尽きるまで単独でも動き続ける。コントロールを失った奴らが『どうなるのか』は、自分達が一番良く知っていることだ。何人か犠牲者も出ている。
それでも、赤井が選択した作戦は『本部の急襲』だったのだ。
これで文句はあるまい。敵陣のど真ん中でこれ以上の長居は不要。
『パァァンッ!』「お前ら、撤収だっ!」『パァァンッ!』
「行くぞっ赤星! そっち側に乗れっ!」「良いんすかぁっ!」
二人は隊長機の左右に掴まって走り出し、本部急襲作戦を終えた。




