アンダーグラウンド掃討作戦(二百七十二)
小さなヘッドライトを点けて、赤星は暗闇を走っていた。
あの後『電源車を運転するのは危険』だと考えていたのだ。確かに赤星は『勘』が鋭い。結果的にだが、今回も正しい選択をした。
アンダーグラウンドの『未踏破部分』は、何があるか判らない。
従軍経験が有ろうと無かろうと、『危険地帯の常識』である。
誰だって『地雷原を先頭で歩く』のは嫌だし、『足跡を正確に辿る』のも当たり前だ。危険と判れば引き返すのも。
だから『本部の混戦』を突破したら、早々に脱出するつもりでいた。後悔なんて微塵もない。『なるようになれ』だ。
そもそも隊長の命令は『出来れば電源車を確保せよ』であって、出来なければ不要なのだ。間違いない。
当然重要なのは『目的の完遂』であって、『充電』ではない。
所詮武器なんて使えば減るし、壊れるし。幾ら高い武器だって、使えなければただの『鉄の塊』に過ぎない。
使えなくなってしまったら、代替手段を考えれば良いだけだ。
そのために『人間が戦っている』のだから。
赤星は急に足を止めた。そしてニヤリと笑う。
「いいもん見っけぇ!」『バタンッ! ガーガー』
それは、誰かが打ち捨てたのか、『スケートボード』だった。
右足でひっくり返してチョンと乗せ、前後に滑らせる。
「やった。まだ行けるジャン♪」
思いの外良く滑る。加速して直ぐに『キックフリップ』を一発決めて、暗闇を疾走して行く。こいつは良い。実に爽快だ。
ドンドン加速してガンガン進む。この道は、電源車で一度走った道だ。障害物の在りかは勿論、マンホールの位置だって覚えている。
文句を言う奴もいないし、邪魔する奴もいない。実に快適だ。
「イエーイッ!」
角を曲がって見えて来た本部は、まだ大荒れのようだった。
派手な『隊長機』が見えて、赤星は迷わずそちらへと向かう。
あれ? 『三人目の部下』は、どうした? 探さないのか?
そんなの知るか。死んだら死んだで仕方ない。なるようになれ。
そもそも『戦闘後の集合地点』は、事前に伝えてある。
当然『三人目の奴』にもだ。名前? そんなのは知らん。顔なんてとっくに忘れた。見たら思い出してやるかもしれないが。
顔を覚えて欲しければ、最低三回は戦闘して、生き残ってから言ってくれ。それまでは『お前』で十分。寧ろ勿体ない位だ。
大体今回だって、決して無理な話ではない。
武器だって渡しているし、水だってちゃんと与えてあるじゃないか。ご丁寧に『地図』だって示した。
そこへ集まれた奴だけが『生き残り』として認められるだけだ。
「お疲れ様です! 隊長っ!」
「おぉ。赤星かぁ。何だ。良いのに乗ってるなぁ」「どもぉ♪」
ガーッと滑って来て、ピョンと飛び降りる。惜しげもなく見送ったスケートボードは、そのままツツーっと流れて敵の足元へ。
「うわっ!」『タタンッ』「赤星到着でぇっすぅ!」「おうっ!」
流れるように足元を攻撃し、止めの弾を撃ち込んでからの敬礼だ。




