アンダーグラウンド掃討作戦(二百七十一)
「おう。どうしたぁ?」「デカい音しましたねぇって、これかっ!」
苦笑いして現れたのは山岸少尉だ。さっきまで本部に居た気がするのだが、それは鮫島少尉の変装で本物はこっちだ。
なぁに。本文は既に修正済。原稿だって直した。誰も気が付いちゃいない筈だ。フハハハハッ!
「これじゃぁ、バレるだろうがぁ」「何がですか? いてっ!」
山岸少尉の苦言に田中軍曹が真っ先に質問したので、コツンとやられてしまった。田中軍曹の目を見るに、何も判っていないようだ。
他の二人ならいざ知らず、『お前がそれじゃ困る』と言いたかったのに。困った部下を持ってしまった。思わずため息だ。
「『敵』に決まってるだろうが! 隠密行動を取ってるんだぞ?」
「あぁ、そうでしたねぇ」「そうでしたねぇってお前……」
呆れて思わず言葉も詰る。しかしそれより、こいつらが先か。
「なぁ良いだろう? じゃぁ『スタローン』やるから二機くれよぉ」
「なっ、どれが『スタローン』なのか見分け付かねぇし、ヤダよ!」
たなっち、きよピコが言い争いを続けている。
ていうか、きよピコは自分の部隊に一機づつ『名前』を付けているようだが、たなっちには見分けが付かない。
どうやらそれが原因で揉めている。しょうもない奴らだ。
「じゃぁ『ジョージ』を」「ハイハイお前たち!」「あ、少尉殿!」
堪らず山岸少尉が割って入る。するとたなっちが直ぐに訴えに。
「少尉殿、聞いて下さいよぉ、きよピコの奴、一機ぶっ壊して俺に」
「あぁー判った判った。きよピコ、何が『撃破』されたんだぁ?」
きよピコがさっきまで可愛い部下に、『何て名前にするか』を楽しそうに考えていたのを思い出していた。
苦労して決めた後のすっきとした笑顔、思わず走り出す喜びと、その元気な後ろ姿は山岸少尉の心にだって、少しも残らなかった。
全くと言って良い程に。何故なら飯を食っていたからだ。
「マイケルですぅ。末っ子で、一番元気の良い奴でねぇ!」
「あぁ、判った判った。それは残念だったなぁ」
半べそになりながら山岸少尉へ抱き付こうとするが、それを山岸少尉は片手で押し留める。
「判ってくれます?」「あぁ、判るよ。で、これが敵か?」
まだまだ燃え盛る電源車の方を指さした。マイケルは電源車に押しつぶされているが、まだ腕をギギギギ動かしている。全損だが。
『ドッッガーン! ボォォォーン』「うわっ!」「おぉぉっ!」
タイミング良く爆発して、マイケルの頭がピョーンと飛んだ。
「マイケルゥゥゥゥ! 少尉殿! 消火器を! 燃えちまうぅ!」
山岸少尉の服を鷲掴みにして、きよピコが揺すっているが、山岸少尉は顔色一つ変えずに冷静だ。
「きよピコ落ち着け。あれはもうションベンでも消せねぇ」
「なるほど! ちょっと掛けて来ます!」「きよピコあぶねぇ!」
一体どうなっているのやら。必死の形相で火に向かい、ズボンを降ろし始めたではないか。汚いケツが見えているぞ。
止めに入ったのは、普段連れションをしているたなっちだ。山岸少尉との間に割って入り、『普段のスタイルなので……』と言訳。
「一機やるから諦めろっ!」「えっ! 本当ですか!」
山岸少尉の優しい声で、きよピコに笑顔が戻った。下は見ない。




