アンダーグラウンド掃討作戦(二百七十)
一人、電源車に残された男は途方に暮れる。
置いて行かれると思って必死に飛び付いたのだが、逆に置いて行かれてしまった。と言うか、任されたと思って良いのか?
溜息をして、先ずは仲間の死体を片付ける。短い付き合いだった。
勿論、何処の誰だか知らないし、知り合ったのは数時間前のこと。
一緒に飯も食ってないし、水だって支給されたのを口に含んでさえもいない。アンダーグラウンドで飲み水は貴重なのに。
まぁ取り敢えず、これで安らかに眠ってくれ。ナムナム。
流儀も作法も知らないが、チョロチョロとペットボトルの水を掛けて血を流し、目を閉じてやった。手も合わせよう。
申し訳ないが、何のために死んでしまったのかも良く判らん。
男は頭を上げて運転席に着き、ライトをオンにする。そうして、アンダーグラウンドの道のりを行く決意を固めた。
電源車が動き出す。目指すは出発地点だ。
なぁに。何処だか判らないが道は碁盤の目。このまま真っすぐ北へ走らせれば直ぐだ。最悪、東武線の駅にでもぶち当たるだろう。
誰もいない道のりである。付近は真っ暗だ。
しかし、揺れる車内で横目に見えるのは、仲間の安らかな寝顔だ。
確かに赤星から『お前とお前とお前。付いて来い』と言われただけ。だから名前だって『お前』としか判らない。
あはは。だとしたら、俺も『お前』になってしまうなぁ。
ハンドルを握り締めながら、思わず笑い出す。
それも良いではないか。この際『お前三兄弟』の長兄として、『お前次男』を弔ってやろう。墓は何処が良い?
あぁ、ごめんごめん。その前に火葬か。火葬場貸そうかぁ?
まだ見ぬ『お前三男』の無事を祈りつつ。アーメン。
いやぁ、思い起こせば数時間前。それからの絆じゃないか。
あのときは『班長のご指名!』とばかりに顔を見合わせてなぁ。
照れ隠しに軽く会釈なんかしちゃって。懐かしい限りだ。
お前も、あれだぞ? あの班長にだけは、付いて行っちゃいけなかったんだよ。判るかぁ? だよなぁ。
判っていないからこうなるんだ。良いか? 良く聞いておけよ?
一度しか言わないからなぁ? 兄弟!
「奴の背中は狭い。きっと命が幾つあっても、足りないぜっ!」
『全くだ。あいつぅ『盾』にもならねぇぜ』
ふと、そんな風に言ったように思えて、男は笑って前を見た。
『ドンッ! ガッチャーン!』「うわぁぁっ!」『ドーンッ!』
何が起きたのか確認する前に、電源車は爆発炎上していた。
著者の都合ではない。飛び出して来た自動警備一五型を、避け切れなかったからだ。
手前には『一時停止』の看板があるし、横断歩道だってある。
あとは裁判で争点になるとしたら、自動警備一五型が果たして『歩行者』と、認定されるかどうかだけだ。
「マイケル! 俺のマイケルがぁ!」「だから飛ばすなって。もぉ」
「たなっちぃ一機分けてくれよぉ。なぁ?」「馬鹿。知らねぇよ!」




