アンダーグラウンド掃討作戦(二百六十七)
「どうもすいません」「気を付けろよぉ?」
互いに不満そうな顔である。『名前を呼んだぐらいで何だ』と思っているかもしれないが、呼ばれた方が嫌がっているのだ。
多分、次もやってしまったら『背中から鉛玉を一発』かも。
すれ違ってから垣間見た『互いの笑顔』は、それを物語る。
「おぉおぉおぉおぉ。『掃除しろ』って、言ったよなぁ」
死体が転がっている上に、辺りは血だらけである。ニヤケて振り返った赤星の笑顔が眩しい。銃口こそ下を向けてはいるものの、それがいつ、こちらを向くかは気分次第だ。
「直ぐ片付けます」「俺も」
部下が床に転がっている死体を片付けようと前に出る。
「ちょっと待て」『タタンッ』『タタンッ』「良し。行けっ」
念押しでもするかのように、見えている死体に銃弾を浴びせた。
どう見ても致命傷だし、放って置いても死にそうなものなのに、赤星と言う奴は随分と用心深いものだ。
「こっちはどうかなぁ。綺麗に片付いて、いぃるぅかぁなぁぁ?」
貴方は幼稚園の先生ですかと。甘く高い声なんて出しちゃって、状況と全く噛み合っていない。それでも、動きは兵士そのものだ。
三台並べた副本部の中を歩き、電源車を通り越して反対側へ行くと、角を曲がって見えなくなった。
『タタンッ』『タタンッ』「こっちも綺麗になってまちゅねぇ」
先ず顔が見えて、それが満面の笑み。逆に怖い。
機嫌良く戻って来るときも、スキップでもしそうだが、不覚の方角にはきっちりと銃口を向ける念の入れようだ。
「良し。じゃぁ、お前。運転しろ」「はいっ」
銃口を向けて指示されれば、それ以外の選択はない。
『免許無いので』ならいざ知らず、『大型はちょっと』なんて言おうものならどうなるか。言わなくても判る。
それに、ここはアンダーグラウンド。警察とか裁判所は何と言うか知らないが、無法地帯であることは確か。何だったら、軍に対する『公務執行妨害』を適用して、来るなら来やがれである。
「あのぉ班長、『車止め』ありましたけど?」
名前を呼んだ部下が今度は名前を伏せ、心配そうに話す。すると赤星パッと振り返り、ニッコリと笑ったではないか。
「良く気が付いたなぁ。ありがとう」「いえ。それ程でも……」
肩を叩かれて、にこやかに礼を言われるなんて、思ってもいなかった。もしかして班長は、本当は『良い人』なのかもしれない。
「じゃぁお前、悪いけど外して来てくれ」「判りました!」
もう和解したように互いに笑顔だ。部下の方が走り始めた。
「外は銃弾が飛び交ってる。気を付けろよ!」「はいっ!」
外へ出る手前でも声を掛けて、手を上げて挨拶まで。
「三台分、全部外すんだぞっ!」「判りましたっ!」
最後は声だけでやり取りをして、赤星は満足そうに頷いた。
笑顔で運転席へ行くと、丁度エンジンが掛かった所だった。
「良い音してんじゃねぇか。良し出せ」「えっ、後ろは?」
連結部分を指さして、運転手が親指で指し示す。
それに今頃、部下が車止めを外しているのでは?
「良いから出せって言ってんだよっ!」『ブオオオォォォンッ!』




