アンダーグラウンド掃討作戦(二百六十四)
「被害状況を報告せよっ! もう一度前衛を組み直せっ!」
本部では鮫島少尉が焦って指示を出していた。それは声からも読み取れる。鮫島少尉だって、操作を知っているのだ。
今下した命令の内『被害状況』は、目の前にある画面で確認出来るはずだ。言葉は悪いが『サボっている』と言われても仕方ない。
「A列、母機損害三機。子機十五機下がらせます」「了解」
早速報告が入った。どうやら現地では『自動警備一五型』を『母機』、搭載している『調和型無人飛行体』を『子機』と表現しているようだ。何か助かる。
「B列、母機損害四機。子機三十二機下がらせます」「んん?」
著者が説明するのを待ってからB列の報告が来る。しかしそこで止まってしまった。鮫島少尉は九九が苦手なのだろうか。
母機一機に子機は八機搭載出来るので、四×八=三十二だ。
「はい。全機探索中でしたので……」「そうか。止むを得ん」
お互いに『九九判りますよね』『勿論だ』と頷き合って、互いに画面を見る。すると互いにテンキーを打ち始めたが、もしかして?
「C列、母機損害五機」「全機かぁ?」「はい……」
子機の状況を報告する前に、驚いた鮫島少尉が大きな声で遮ってしまった。顔も『信じられない』『なぜ』『高いのになぁ』である。
「どうも子機が、誘爆してしまったらしく……」「なっ?」
理由を聞いても、鮫島少尉の頭は理解が追い付かなかったらしい。
それもそうだ。仮に『四×八』の計算でオーバーフローしてしまったとしたならば、頭の計算回路は五ビットしかないことなってしまう。きっと三十一が上限なのだろう。その程度では止むを得まい。
「D列、母機」「ちょっと待てっ!」
思わず左手をD列席の方に向けて、報告を打ち切った。
D列のオペレータは少々ムッとした顔で、何とか言いたいことを飲み込んだようだが、自画面と鮫島少尉を交互に眺めている。
何か急いで処理しなければならない事態なのだろう。必死だ。
「あのぉ、こちらの子機も二十五機、母機が無くてですねぇ……」
「判っているっ! 今、満充電の奴と入れ替える場所を作るっ!」
鮫島少尉が慌てているのは『子機のやり繰り』だった。
空母艦載機が全機飛び立った後、母艦となる空母が攻撃に合って轟沈してしまったら、着艦は他の空母へと振り替える。
着艦出来ない場合は近くの地上基地へ送ったり、無理なら海上に不時着させて、乗員だけは回収しなければならない。
不時着するならその前に、艦載機に搭載している爆弾や魚雷は、危ないので破棄することになるだろう。
今回の子機は乗員がいないので、何処かに不時着させて後で回収すれば良い。敵の手に渡るのは怖いが致し方ない。
しかし、最後の自爆用として搭載している『Cー4』を破棄する術がないのだ。確か『強引に蓋を開けたら自爆する』という仕様になっていた筈。それが『誘爆の原因』に違いない。
「あのぉ上空待機あと五分です」「同じく六分です」「二分……」
「ちょぉぉっと待てぇぇっ! きゅぅじゅぅ秒で準備するぅっ!」




