アンダーグラウンド掃討作戦(二百六十二)
「『ナイアガラ』の発動を確認」「たぁまやぁぁっ!」
闇に包まれていたアンダーグラウンドに、突然明かりが灯る。
ここは地上三十メートルにある、人工地盤のメンテナンス通路だ。
何の防御施設もない代わりに、見通しだけは抜群である。
『ドーンッ』『ドーンッ』『ドーンッ』『ドーンッ』『ドーンッ』
音は遅れて届く。『ナイアガラ』と言えば、横一線に並んだ仕掛けから、光が流れ落ちるような『滝』をイメージしてのこと。
聞こえて来たのは花火の静かな『バチバチ』音ではなく、Cー4の派手な爆発音だ。
「敵機を破壊した模様。沈黙しています」「派手にやったなぁ」
複数個所で炸裂した明かりで、アンダーグラウンドの廃墟が浮かび上がる。しかしそれは、夏の思い出にしては切なく、一瞬の輝きでもって消えた。
「何だぁ。もう終わりかぁ? もっと見たぁぁい!」
暗くなって静かになると、騒ぎ出す奴がいるものだ。
「終わりですよぉ。じじぃが仕掛けたんでしょうがっ」
そうだそうだ。そんなに見たけりゃ自分でもっと仕掛けて来い。
「バレたぁ?」「そりゃバレますよぉ。一緒に仕掛けたんだからぁ」
辺りは再び暗闇に包まれた。笑顔と怒り顔で向き合った二人の姿も暗闇へと消えて行く。そして、目の光とわだかまりだけが残った。
さっきから不謹慎な言動を繰り返している奴。
爆薬一筋三十年。気に入らない奴は、敵も味方も吹き飛ばして来た。ブラック・ゼロの黒田だ。決めポーズは誰も見ていない。
片や爆薬一筋三十時間。現役自衛官の頃より技術が向上してしまった節もある、同じくブラック・ゼロの黒井だ。決めポーズはない。
火事場の炎で『タバコに火を点ける』と、消防士から物凄く怒られることは経験済である。しかし、爆弾が炸裂した明かりを頼りに『電話を掛ける』のは、誰からも怒られないようだ。
黒田はもうダイヤルを回し終わって、相手が出るのを待っていた。
「あぁ、俺俺。うん。無事起動したぁ。じゃぁ『次』あるからぁ」
ガチャンと受話器を降ろすとニッコリと笑う。黒井は首を傾げる。
「誰に報告したんですか?」「そりゃお前、『雇い主』だよぉ」
「まぁた秘密ですかぁ。で、次は何処ですかぁ?」「ケケケッ」
聞いた方が馬鹿だったと思うしかない。いつも振り回されてばかりだ。しかし黒田は、色んなことを知っている。
爆薬についてもそうだが、起爆装置についてもそう。何処で教わって来たのか、それとも自己流なのか知らないが正直勉強になった。
こんな所に通路があることは勿論、脱出方向だって二方向を確保している。それに、電話が設置されていることにだって驚きだ。
高速道路に設置してある、工事用とか緊急用なのだろうか?
あれは、一度高速道路の管理センターに繋がるらしいが、これはダイヤルインが出来た。となると、普通の電話に見える。
いやはや。相当古そうなのだが。今時黒電話があるなんて。
「おい。行くぞぉ」「へいへーい」
まぁ、今は考えていても仕方がない。今日は忙しそうだし。
二人は暗闇の中を、ロープを伝って柱を降り始めた。




