アンダーグラウンド掃討作戦(二百六十一)
「何が起きたっ! 一機消えたぞっ!」
聞くと同時に、鮫島少尉は立ち上がっていた。
「爆発です。一機破壊されましたっ。カメラ切り替えます。あれっ」
するとD列のオペレーターから、画面を見たまま報告が返る。手元では部隊の再編作業をしているのか、忙しく手を動かし始めた。
大声に驚いて振り返ったのは、B列のオペレーターだ。
何も無いのに、突然真後ろの席で鮫島少尉が叫んだものだから。
見れば鮫島少尉の顔から、血の気が引いていた。
D列席も見たが『異変』が起きているのは明らかだ。直ぐに自部隊を確認しようと画面に見入る。その瞬間だ。
「うわっ!」
左耳に着けていた片耳ヘッドホンを、思わず外していた。
「爆発です!」『ガーン! ドッガーン! ボォォーン!』
聞けば判る。と言うか、煩くて外したヘッドホンからも、十分な音量の爆発音が聞こえているではないか。それも一度ではない。
すると、C列のオペレーターも片耳ヘッドフォンを外した。
「こ、こっちもです」「何処だか報告しろっ!」「全面的にです!」
鮫島少尉は座って画面を見た。自機の点が次々と消えて、さっきまで一直線になっていた陣形が崩れ、すっかりバラバラではないか。
蔵前橋通りで、何が起きている? 付近に敵が居ないことを確認して進軍している筈。いや、それよりも『対戦車地雷』を奴らが用意していたのか? そんなことあり得る? 何処から手に入れた?
いやまて。我々は『対物ライフル』の狙撃を受けたばかりだ。
今更『入手ルート』を考えても仕方がないではないか。
目の前で『今、何が起きているのか』を正確に捉え、慎重に対処しなければこの戦闘に勝利は無い。
「下がれっ! 蔵前橋通りを越えたのも呼び戻せっ!」
変な命令だと思ったのか、四人のオペレーター全員が振り返った。
「えっ、下げるのでありますか?」「まだ行けます!」
確かに一分隊の、それも一部がやられただけだ。後詰めも再編中であるものも含めて、まだ十分にある。
それに、今回は『多少の被害が出ても、数で押し切る』という骨子の作戦だったのでは? 今のはまだ『多少』でしょう。
「じゃぁ『充電』は、誰がしに行くんだぁ?」「それは……」
「お前ら、行くのかぁ?」「それは勘弁して下さい」「俺も……」
それでも、まだ『どうしようか』と顔を見合わせている。
鮫島少尉は現場を任されているとは言え、『大きな作戦変更』は『大佐の許可』が必要な筈。勝手に下がって大丈夫なのだろうか。
大佐は今日、NJS本社の『統合作戦本部』に詰めている。
ここは一度報告して、確認を求めた方が良いのでは?
「敵は『イチゴ狩り』が得意なのだぞっ! もたもたするなっ!」
立ち上がった鮫島少尉が大声で叫ぶ。全員が急いで画面に向き直った。そして命令通り『下がれ』を指示して行く。
鮫島少尉に言われるまで彼らは忘れていた。奴らは『自動警備一五型を鹵獲できる』ということを。




