アンダーグラウンド掃討作戦(二百五十九)
「A列四行目を制圧しました」「B列も同じく四行目を制圧」
画面に表示されたステータスを確認して、オペレーターがコールした。薄明りが照らす本部内は、緊張感で満ち溢れている。
本部内には四人のオペレータが座り、担当の画面を凝視しているのだが、その後ろには鮫島少尉がうろついていた。
背筋を伸ばして後ろに手を組み、順調な報告に頷きながらだ。
「C列も、間もなく突破の見込みです」
三人目の報告を聞いて、ピタッと足が止まった。九十度向きを変えて右手を顎に添えると画面を睨み付ける。
「間もなくとは。具体的に?」
言い方は普通なのに、オペレーターだけが慌て始める。
画面を指さして状況をもう一度確認すると、そのまま振り返った。
「あと一人なので、三分もあれば」「遅い。九十秒で始末しろっ」
報告のセリフはもう少し長かったのかもしれないが、それは強い調子の命令で打ち切られた。オペレーターの目がピクリとする。
「はっ、了解です!」「列を乱すなぁ」
返事をして直ぐに画面へと向き直った頃には、鮫島少尉はもう次の席へと歩き始めていた。聞こえて来た口調は元に戻っている。
「D列はどうだ? さっきは『苦戦している』とのことだが」
呼び掛けられたオペレーターが、パッと振り返る。
「大丈夫です。無事四行目を制圧して、前衛を交代している所です」
「良いぞ」「はい」「んっ?」「!」
オペレーターが驚いている。直ぐ横に、鮫島少尉の顔が来たからだ。右手で画面を指し示されて、慌てて画面へと向き直る。
「こいつ。一七五は損傷が多い。下げろ」「直ぐ下げます」
返事は聞いていない。鮫島少尉は通路に戻ると再び歩き出す。
後ろから聞こえて来る『素早い打鍵音』が返事代わりだ。
「次の五行目は蔵前橋通りがある。無傷の部隊を前衛に出せ」
「了解しました」「了解しました」「了解しました」
画面の作戦範囲は、南北に走る大通り沿いにAからDの『列』が、侵攻する度合いを十段階の『行』として表現している。
ということは、今の報告で全体の四割を制圧したことになるのだが、現地を預かる鮫島少尉は気を抜かない。
「C列、四行目を制圧しましたっ! 敵、完全に沈黙!」
ホッとしたような声。他のオペレーターも『待機中』なのだろう。顔を見合わせて『良かった』と頷き合っている。
しかし鮫島少尉は無表情のまま腕時計を見ただけだ。すると、九十秒、もしくはそれ以下だったのだろう。黙って頷いた。
「C列、前衛の交代は?」「無傷の部隊に交代済です」「良し」
直ぐに返事があった。慌てていても指示はちゃんと聞いていたようだ。頷き合う三人に合流するかのように左右両方へと頷く。
A列とB列の二人が『GJ』と親指を立てた。
しかし鮫島少尉は、場の空気が一瞬でも『ホッ』と和んだのさえ許さない。それを打ち払うやふな厳しい口調で指示を出す。
「誰も逃すなぁ。ラインを崩さず、確実に押し込めっ!」




