アンダーグラウンド掃討作戦(二百五十四)
もう一度赤井が机を覗き込む。そこにはA4の紙をそっと重ねただけの、『一枚の図面』が出来上がっていた。鼻息も厳禁だ。
その図面を指し示しながら、これから説明をするのだろう。一同は赤井の指先に注目しつつ、耳の穴もかっぽじって準備を待つ。
「先ず、ここが入り口だ」「いや、それは判りますよぉ」「あはは」
至極当たり前のことを『さも重要なこと』のように言ってみせた赤井に、全員が笑顔で顔を上げた。
ほれ見ろ。何てことはない。赤井だって笑っているではないか。
「入り口と言っても、たぁだぁの入り口ではないぃっ」
勿体ぶって言っても、只の入り口にしか見えないのだが。
「アンダーグラウンドのですかぁ」「おいおい。それは無理だろぉ」
「入れる訳ねぇだろっ」「お前も、ちったぁ考えろよ」
ボケをかますと、その突っ込みは規定の三倍返しだ。
地図の隅にある『グランドフロア』の記載を、『良く見ろ』とばかりに指先でトントンされて男は黙った。赤井は頷いて話を続ける。
「ハーフボックスの乗り場は『社員用』ではなく、『関係者用』が別にあるようだ。グランドフロアの平面図があっただろう?」
まだ残っている『紙の山』を指さした。
すると近くにいた男が、それを纏めて拾い上げる。そして、目的の『平面図』を探し始めた。しかし見つからない。
じれったくなったのだろう。隣の男から無言で手が伸びて来た。態度からして、当然『よこせ』だ。無理矢理に半分奪う。
数枚づつに小分けにして、更に隣の男へと配る。奪われた男も『なるほど』と、気が付いたのだろう。自分が見終わった分も含め、手持ちの資料を小分けにする。そして反対側へ配り始めた。
直ぐ隣の男に『これは見たんだろ!』と突っ込まれるが、直に全員の手へと行き渡る。会議室に平面図を探す紙の音だけが響く。
「あった。『グランドフロア・平面図』これですねっ!」
丁度赤井と対面の男が探し当てたようだ。
上下を逆さまにして赤井に見せると、それをそっと机の上に置く。
「そうだこれだ。えぇっとぉ、ココがハーフボックス乗り場でぇ、社員用の入り口の横にある通路を入って行ってぇ、ココだっ」
トントンと指さした場所は狭い通路を大分折れ曲がって、かなり先まで進んだ場所だった。
「ハーフボックスなぁ? 『金ピカ』だったらしいんだ」
「儲かってんなぁ」「いや、赤井さん。その情報要らないっす」
「どうせ『金メッキ』なんだろぉ?」「いや、塗料だろぉ?」
苦笑いで固まっている赤井にも、容赦なく突っ込みが入る。
しかし赤井が発した情報は、『意外な情報』だった。
「ハーフボックスがなぁ? あちこち動いて『この辺』が目的地だ」
再び『ビルを横から見た図』の方を指さした。
しかし一同には『赤井の指先の動き』が、一体何を表しているのかが判らない。赤線は『真っ直ぐ』に描かれているのに、赤井の指先は『カクカク』と曲がりくねっているのだ。
「もしかしてぇ『ビル内で蛇行している』とかぁ?」「正解!」
男が軽い冗談のつもりで言ったのが『正しい答え』だったらしい。
そんな答え、全く嬉しく無いのだが。全員が渋い顔になっていた。




