アンダーグラウンド掃討作戦(二百五十三)
「NJSの本社を襲い、マザーコンピュータを止めるっ!」
握り締めた拳が震えている。それが何を表しているのかは明白だ。
「まさか」「司令官、本気なんですか?」「本気だ」「どうやって」
途端にざわつきと、司令官への質問が始まっていた。
「え? 銃を持って行くのか?」「馬鹿、当たり前だろっ!」
「そうだぞ? お前『就活』じゃねぇんだ」「アポは要らない?」
ちょっとトンチンカンな質問をした奴は、頭をパチンと叩かれている。舌を出してペロッとしている辺り、痛くはないのだろう。
「司令官、民間人もいるのですよ?」「判っている」
最後の質問と赤井の返事を聞いて、ざわつきが納まった。
視線も赤井へと集まり、次の言葉を待っている。
すると赤井は握り締めていた拳を緩めると、足元のカバンに手を伸ばす。おもむろに蓋を開け、大きな封筒を取り出した。
A4サイズの紙。それがパンパンに入っているのが、閉じられない封から覗き見える。一同は『何だろう』と思って固唾を呑んだ。
「これは、NJS本社ビルの設計図だ。これを見てくれ」
ガサっとまとめて机上に放り出し、地図の上にぶちまけた。
ホチキスなんて高尚なものはない。だから紙がバラバラになる。
それでも手書きで頁番号が振ってあり、最低限、順序は判るようになっているから安心だ。一同が苦い顔なのは変わらないが。
「随分と『アナログ』なのですね?」「これ、繋げて一枚かぁ?」
一枚では何だか判らないが、順番通りに並べてみると『一枚の図面』に組み上がって行く。きっと最初は大きな紙だったのだろう。
「仕方ないだろう? 寄せ集めたんだ」「それにしてもぉ」
やっと赤井に『いつもの笑顔』が戻った。
時間があれば、『ブラック・ゼロの苦労話』もしてやりたい所であるが、今はそんな猶予はない。急いで組み立てて、解析せねば。
「この『赤線』は、何ですかぁ?」「んん? あぁそれか」
セロハンテープなんて高尚な物もない。糊もだ。
あるとしたら『鳥もち』位だが、それを言い出す輩はいない。
だから、ピッタリ並べた図面をずらさないようにと、紙の上からそっと指さしていた。一応それ位の気配りは出来るようだ。
もちろん『窓を開ける』なんてこともしない。そんなことをしたら、バラバラに飛んで行ってしまうだろう。
「ブラック・ゼロが『コンピュータールーム』に侵入した経路だ」
グランドフロアから伸びる、一本の赤線。最後は星印で終わっている。赤井はその赤線を辿り、星印を指先で二度タップした。
「では、ここを辿って行けば行けると!」「何だ。簡単ジャン」
「直ぐ出発だ!」「これは一分隊も行けば、楽勝だな」
「手榴弾でも放り込んでやれば、一発だぁ」「ボーンてかぁ?」
「あはは」「お前、さっきまで『民間施設』とか言ってたのに」
「意外と酷い奴なだぁ」「何だよ。お前程じゃないよ」
「何を言ってるんだ。お前にだけは言われたくねぇなぁ」「わはは」
そんな『楽勝ムード』の中、赤井だけは両手を縦に振っている。
「それがなぁ? そんな簡単じゃぁ、ないんだな。これが」
急に静かになった。赤井が『簡単じゃない』と言ったら、それは『難しい』を意味しているからだ。凄く。




