アンダーグラウンド掃討作戦(二百四十四)
頭に乗せた冬月電子の箱。きっとNJSのミニコン『南天』の、大量買いをしたに違いない。ニコニコ顔で店から出て来た所だ。
更に両手には、二つづつ抱えた抱き枕が合わせて四つ。
何れも強く抱きしめられていて、描かれた華奢な体が『ギュッ』となってしまっている。何とも気の毒だ。
それでも『可愛いお顔』が歪むことはなく、むしろ『そんな状態で笑っている』のを見てしまうと、逆に心配になってしまう。
アイドルの世界は、余程厳しいに違いない。
苦しいことを乗り越えてこそ、初めて見えて来る世界と境地がそこにあるのだろう。ライバルを蹴落とすだけが戦いではない筈だ。
するとやはり彼女達の笑顔は、数奇な運命をも『受け入れている』とも感じられる。何とも言えぬ切なささえ漂うではないか。
例え内部の綿を抜かれ、オーバークロックしたミニコンを仕掛けられ、挙句の果てに眉間か喉元へ、銃弾が撃ち込まれてもだ。
調和型無人飛行体にとってそんな『抱き枕』は、『人間である』と判断され、かつ『敵である』と認識された。
つまり、以下のことが浮き彫りとなるだろう。
例え女子供であろうとも、お目目パッチリの可愛い顔であろうとも、勿論スタイル抜群であろうとも、例外も見境もなく標的である。
そう言う意味で千絵は、少なからず驚愕していた。
動揺もある。何故なら『女であること』だって武器としているからに他ならない。男を唸らせ、垣間見えた『一瞬の隙』を突く。
どうやらそれは、『機械』及び『人工知能』には通じないらしい。
一方、同じ美人でも『戦闘能力が皆無』である朱美は、人妻であることも忘れてスクリーンに見入っていた。
そこに写っていたのは、あの『宮園武夫』だったからだ。
「アルバトロスは、『鳥島』に帰ったのでは?」
笑顔で問う。もちろん『冗談のつもり』だ。
裏の事情を知らされていない朱美にしてみれば、宮園武夫のハッカーネーム『アルバトロス』はまだ有効である。
デブな上に『いやらしい目』でジロジロ見て来る。だから気持ちが悪いのは確か。それでも、未だに『仲間の一員』とは思っている。
「違う。硫黄島だ」「はぁ? バカンスでぇ?」
硫黄島は『ガリソンの採掘現場』であり、一般人は立ち入り禁止である。『南の島である』ことに、違いはないのだが。
「いや、奴は『裏切り者』だから『処分』したんだ」「!」
思わず息を呑む。『731部隊の協力者』の肩書を持つ朱美にしてみれば、『裏切り者』と言われても言い逃れできない。
「あいつ、俺達の情報を売りやがったんだ」
やけに『にっこり』と笑って、高田部長が朱美の方を見た。目は『判るね』であるし、スクリーンを指さしている指が『次はお前だ』と向けられるのも怖い。何度も頷いた。
それからだ。本部長と高田部長には、既に『身バレしていた』ことを思い出したのは。
そう言えば最近、『石井少佐』からの連絡がない。喜ばしいが。




