アンダーグラウンド掃討作戦(二百三十四)
区役所通りを南進する第三小隊は、第一中継地点を通過した。
春日通との交差点である。そこに残っていたコンクリート造りの廃墟に、中継用のアンテナを設置してある。
勿論内部は隅から隅まで調査済で、『ねずみ』でも居ようものななら、当然『駆除』するのも作戦の内。しかし幾ら調べて見ても、『生命反応無し』ばかり。お陰で無事占拠することが出来た。
兵士五名からなる一班と、自動警備一五型一機を守備用として配置してある。
兵士の方は勿論武装しているが、入り口を守る自動警備一五型がいれば武器の出番はないだろう。
主なお仕事は無線中継機器の操作と、近辺の状況把握である。
「おぉ。早速行ったなぁ」「いやぁ、壮観ですなぁ」
窓から見下ろすと、美しい隊形を組んで走る自動警備一五型の後ろ姿を拝むことが出来る。二人は笑っていた。
「なぁ、これからの戦争は、あいつらがやれば良いんじゃね?」
「そうだよなぁ。あいつら、人間よりめっちゃ強いもんなぁ」
仕事をサボってか、それとも合間を縫ってかは知らないが、窓辺の二人が呑気に会話を続けている。
少し大きな声なのは、蹂躙する音が鳴り響いているからだろう。
いやもしかしたら、忙しく手を動かしている仲間に、わざと聞こえるように言っているのかもしれない。一人の男が顔を上げた。
「んな訳ないだろうがぁ」「そうですかねぇ」「言い切れますぅ?」
言い方からして、どちら側にも不満があるようだ。『喧嘩になる程』ではないだろうが、どちらも実弾を装填した銃を所持している。
しかも何時でも撃てるように、安全装置は外したままだ。
「戦争は絶対、『人間同士の殺し合い』が必要なんだよ」
したり顔で話す男の意見を聞いて、窓辺の二人は笑い出す。
じゃぁ何か? こっちが『ロボット』を出したのに、向こうが『人間』を出して来たら、『俺達』が相手をしないといけないのか?
しかもそれだと、今回の作戦について『批判をしている』とも受け取れるではないか。窓辺の一人が笑顔のまま、男を指さした。
「じゃぁお前、ミントちゃんと一緒に行って来いよ! ブーンって」
「あはは! そうだよぉ。こんな暗い所で、敵を探索して見ろよぉ」
男の『本心』になんて、関心はないのだろう。寧ろ小馬鹿にしていて、出来もしないことを『して来い』と煽っている節もある。
だから人差し指を立てた右手を、建物の中から外に向け、何度も振り続けていた。
「一人でも多く殺して来いよぉ?」「いや、それはダメだよ」
「何でだよぉ。行けよぉ」「お前あれだろ。怖くなったのかぁ?」
「怖くなんかないよ」「嘘嘘。根性見せろって」「おいお前らっ!」
三人の『口喧嘩』がヒートアップした所で、班長が止めに入った。流石に上官からの注意は、聞き入れざるを得ない。直ぐに黙る。
全く。今は『作戦遂行中』なのだ。哲学論をしている時間ではない。だからそう言うのは、『作戦が無事に完遂してから』にして欲しい。勿論、『俺の居ない所で』だ。班長は腹から声を出す。
「良いかお前ら。この『中継地点を守ること』が、俺達の役割だっ」




