アンダーグラウンド掃討作戦(二百三十二)
上官に手を上げることは絶対に許されない。
規律の厳しい軍隊では猶更だ。もしもそんなことをしたならば、楽しい『軍法会議』が待っている。注意されたし。
「酷いじゃないですかぁっ!」「わははっ! 良いじゃねぇかよぉ」
しかし、小馬鹿にされたときは良いらしい。
赤丸は赤坂の手を払い除けると、押さえられない怒りを赤坂の胸にぶつける。ポカポカと胸を殴り続けた。
それでも赤坂は怒ることもなく、笑っているのだが。
大して痛くはないのだろう。それに、強く殴っている訳でもない。
だからだろうか。『気が済んだか』とばかりに、今度は赤丸の手を払い除けて後ろを指さした。
「ほれ、見てみぃ。あいつもやられるぞ」「えっ?」(ターン!)
言った傍からタイミングが良い。再び銃声が響いた。
まるで作者が『予め予定していた』かのような流れ。すると今度は、下を覗いていた男が仰け反るように崩れ落ちる。
『おわっ。あぁあぁっ!』
音速と言えどもノータイムという訳には行かない。キャットウォークに崩れ落ちる姿を確認してから、やや遅れて叫び声が届く。
見事命中だ。レッド・ゼロの二番隊はスナイパー集団である。しかし新人の赤丸は、不満そうな顔をして振り返った。
「下に落ちなかったじゃないですかぁ。あれ、まだ生きてますよ?」
「それで良いんだよ。足を撃ったんだろ?」「そうみたいですね」
赤丸の苦情にも、赤坂は『作戦通り』なのか平然としている。
しかしさっきまで、『ヘッドショットがベスト』であると思っていた赤丸にとって、足に当たったのは『実力不足』以外の何物でもない。不思議そうに首を傾げている。
「助けに来た奴をまた撃つからぁ。それで良いんだよ」
「えぇぇっ、それは酷い。中々の鬼畜ですねぇ」
苦虫を噛み潰したような顔になって振り返る。赤丸は『常識人』なのだろうか。それとも『良い奴』なのか?
いや、知らないだけで、赤坂とそう大差はない。
「この作戦で、『俺達の役割』とは?」
ニッコリ笑った赤坂の顔を見て、赤丸は直ぐに思い出したのだろう。しかし渋い顔になって答えを捻り出す。
「『恐怖を植え付けること』です」「その通り。良く出来ました」
赤坂の笑顔を見たくなくなったのか、赤丸は再び振り返った。
遠目に見える『撃たれた男』は、狭いキャットウォークの上で足を押さえてのた打ち回っている。
「助けに来なかったら、あいつ死ぬんじゃないですか?」
「まぁ、死ぬだろうねぇ」「助けに来た奴が撃たれたら?」
「まぁ、それも死ぬだろうねぇ」「酷いなぁ」
酷いのはお互い様である。五十歩百歩ならぬ、五十発百発だ。
今回スナイプポイントに、『殺人ドローンが飛来する』と予想した。だから『あれ? 誰も居ない』と、調べに来た奴をスナイプすることにしただけだ。それなら何処から撃っているのか判るまい。
じわじわと、一人減り、二人減りして行く『恐怖』を、じっくりと味わって貰おうではないか。遠慮は要らない。




