アンダーグラウンド掃討作戦(二百二十七)
震えながらも梯子を登り、『手摺のある通路』まで直ぐそこだ。
天井までは二メートル余り。天上と言うか『人工地盤の裏側』である。そこまであまり高くないが、今は寧ろ都合が良い。
下から見えても嫌だし、猫ではないが今は狭い所の方が安心する。
「ここが『キャットウォーク』ですか?」「そうだ。良い所だろぉ」
先に到着していた赤坂が、赤丸の荷物を掴んで引き揚げた。
赤丸は手摺の下の方を掴んで、這いつくばって到着だ。一息付くまでもう少し立てそうにない。
「ふぅ。いやぁ。怖かったぁ」「どうだ。見晴らしが良いだろう」
下を見ないようにして頑張って来た赤丸に、酷い仕打ちだ。
赤丸は這いつくばったまま、辺りを見回した。見晴らしだと? どこがじゃ。真っ暗で何も見えないではないか。ふざけている。
「何も見えませんよぉ」「そうかぁ? 目が慣れてくれば見えるよ」
気が付けば緑色の赤坂は、暗視眼鏡を外していた。
赤丸も暗視眼鏡を外す。目の前の緑掛かった映像から一転。白黒の世界が現れた。まぁ、『色合い』については似たり寄ったりだ。
目を凝らせば、先へと続くキャットウォークが見える。
柱と柱の間、天井からぶら下がっている通路が真っすぐに伸びていて、柱に辿り着くと左右に分かれている様子が微かに。
柱を巻くように設置されていているのだろう。今登って来た柱と、きっと同じようなものに違いない。
キャットウォークまで来て初めて見えたのだが、所々に明かりが灯っている。緑色の『避難口』の看板だ。
誰も居やしないのに、正直『こんな所にまで』と思う。が、ちゃんと付けている辺り、如何にも『日本人らしい』ではないか。
真暗な中で『必要最低限の明かり』とは言え、それでも足元を照らすには十分だ。設置したのは『法令』か『人』かは知らないが、感謝しつつ十分に活用させて頂くことにする。
赤丸が立ち上がったのを見て、赤坂が笑いながら歩き始める。
きっと赤丸の『へっぴり腰』が面白かったのだろう。
「行くぞっ」「はいっ!」
返事だけは元気が良い。しかし赤坂が直ぐに振り返った。
「静かにな」「はい」
ヒソヒソ声。赤丸は咄嗟に『小さな声』で返事をした。
再び歩き始めた赤坂の後ろを、必死に付いて行く赤丸。歩き始めて直ぐ、『静かにする』のが『返事』ではないことに気が付く。
鉄の床であるキャットウォークは、歩くとカンカン音がするのだ。
しかし音を立てているのは、何故か赤丸の方だけ。赤坂は猫のような『しなやかな足さばき』で、物音一つ立てずに進んでいる。
まるで二人で歩いているのに、足音は『一人分』だ。
「静かにっ!」「はい。フガッ!」
大きな声。しかし赤丸は静かに返事した。すると今度は、返事をするのもダメだったらしい。振り返った赤坂の手によって口を押さえられ、そのままキャットウォークに組み伏せられる。
『ブゥゥン。ブゥブゥゥゥン』
何だか『特徴のある羽音』が、柱の方から聞こえて来る。




