アンダーグラウンド掃討作戦(二百二十四)
あれから既に一時間は経過しただろうか。
厩橋を望む拠点を出発し地下の通路を歩き続ける二人は、やっと上に向かう梯子に取り付いていた。
一番上、『鉄板』のある所まで辿り着いて、赤坂が振り返る。
「ライトを消せ」
小さな声。だから赤丸は黙って頷いた。
何処だか知らないが、もしかすると外は『敵陣の真っ只中』なのだろうか。だとしたら、こちらは成す術がない。
何しろ『拳銃』の一つも携帯してはいないのだから。
そう思っていると、目の前に『ナイフの柄』が見える。
赤丸の目の前には赤坂の足が見えていて、ズボンの内側に隠したナイフが見えていたのだ。
赤丸が『良いなぁ』と見ている間に、赤坂は左手でマンホールの蓋をゆっくりと開けていた。音がしないよう慎重にだ。
明かりは見えない。だからと言って『安全』ではない。
敵の秘密兵器『調和型無人飛行体』は、暗闇でも飛翔が可能。そして、暗闇でもスナイプが可能だ。
唯一の手掛かりは静かに回る『羽音』である。鹵獲したものを分解して、内部を綿密に調査した。それで判ったことが幾つかある。
水没したので動かなくはなっていたものの、モーターについては『同型の物』を取り寄せた。そして二台の内、『破損していない羽』を四つ集めて『一台分』とし、もう一度組み立て直したのだ。
実際に飛ばした訳ではない。コントローラーは再生出来なかったし、万が一『マザーコンピュータへ連絡』でもされたら大変だ。
だから鹵獲したブラック・ゼロの二人に、再生した羽音を利かせて『こんな音だった』と、実機と比較して貰ったのだ。
その後は、手に持って移動しながら『羽音を録音』した。
若い方の『黒井って奴』は、全然覚えていなかったよなぁ。新入り使えねぇ。それに比べて、やっぱり頼りになるのは黒田さんだ。
しっかり『羽音』を覚えていてくれて、本当に助かった。
飛行中に、角度が変わったときに聞こえる羽音についてもそう。
『回転数の差によって生じる不協和音が、凄く特徴的なんだよぉ』
と、具体的で凄く参考になる情報を伝えてくれた。
今こそ、『その情報』が役に立つときだ。ブラック・ゼロ万歳。
赤坂は息を殺し、左肘と頭でマンホールの蓋を下から支えると、左耳に左手を添える。隙間から見える世界は暗黒のままだ。
特徴のある『羽音』は勿論、『不協和音』についても聞き逃すまいと耳を澄ませる。ついでに目も瞑って、耳に神経を集中だ。
『俺の専門はジェットエンジンだからぁ、プロペラはちょっとぉ』
笑いながら言い訳をする『確か黒井って奴。えぇ? 本名なの? どうすんの? 馬鹿なの?』の顔が、不覚にも浮かんでしまった。
確かそんなことを抜かして居やがったが、全くもって使えん。
いや、待て待て。流石のブラック・ゼロでも、果たして『戦闘機乗り』が要るのだろうか。アンダーグラウンドで飛ばすのかぁ?
無理。奴が一体『何の役に立つ』のか、こっちが聞きたい位だ。




