アンダーグラウンド掃討作戦(百九十九)
「おっ、赤田じいさん、また当てたのかぁ?」
競馬中継を聞いていたのに、周りの奴らは笑っている。戦闘状況の把握をする重要な会議であるにも関わらずだ。
「これで四連勝。今日はまだ負けなしだな。ウヒヒヒッ」
「やるなぁ」「すげぇな。三連単って、当たるもんなのぉ?」
赤田は秘訣を披露するでもなく、ニッコリ笑っただけで着席する。おもむろにイヤホンを拾うと耳に装着した。
「次も当ててくれなっ!」「任せとけっ」
司令官の赤井でさえ怒る様子もない。むしろ肩をポンと叩いて『頼りにしている感』さえ漂う。一体全体、どういうことなのだろう。
「今度は『ロケットランチャー』買えるかなぁ?」
対面からの物騒な質問に、赤田はニヤッと笑った。
行けるのかと思いきや、目を瞑りながら小さく首を横に振っている。どうやら『それは無理』らしい。
『グレネードランチャー買ってやったんだから、それで我慢しろっ』
黙ってはいるが、赤田の顔はそう語っている。
その通り。赤田の『競馬』は個人的な趣味ではなく、レッド・ゼロ公式の『資金調達』なのだ。決して遊んでいる訳ではない。
実績も余りある。赤田がレッド・ゼロに来てからというもの、武器の購入に関してかなり楽になった。『ダークサイトでポチポチ』しても、資金に困ることがない程である。
だからこそ対面の男は、赤川が地図を指さしたのを見て口をへの字にして押し黙った。
「敵の移動速度は尋常じゃないですね。もう少し散開するのが遅かったら、軽トラが止まった瞬間にやられていました」
赤川は地図上の散開ポイントを指さした。
普通は距離を取れば有利になる筈なのに、対・殺人ドローンについては逆らしい。何てこったである。
一同は赤川の表情を見て、『紙一重』だったことに驚く。
「良く逃げ切れたなぁ」「逃げ切れていませんよぉ」
口を挟んだのは、『真っ直ぐに逃げる役』を仰せつかった赤村である。軽トラックを降りてから、階段を上るまでの間に命名された。
しかしそれは置いといて、逃げ切れないのにどうして生きているのか。目を丸くした仲間の視線を一気に集める結果となる。
「あいつ、正確に『ココ』を何度も狙って来やがってさぁ」
自分の後頭部を右手で何度も指し示してから、左手に持っていた『鉄板』を机の上に放り投げた。ガランと音がする。
見ればそこには、何度も同じ場所に当たった『銃痕』が。
「随分正確に狙って来るんだなぁ」
赤井が『俺には無理』を醸し出しながら言う。話を遮られた赤川も、明るい場所で見るのは初めてだったのか、まじまじと見た。
「感心しないで下さいよぉ。冗談じゃないですからねぇ?」
言葉尻を強めているが顔は笑っている。赤井から鉄板を取り上げると、『見せてくれよ』と催促されて渡す。
そのまま仲間内での回覧が始まった。みんな『これ位の厚みがあれば良いのか』を確認しているのだろう。自分の命を守るために。




