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アンダーグラウンド掃討作戦(百九十八)

 階段を勢い良く上る音が聞こえて来て、会議室は突然静かになった。白熱した議論は暫時休憩だ。全員がパッと顔を上げた。

 まぁ誰かさんのように、『ずっと休憩中』の奴もいるのだが。


 殆どの者は入り口の扉を見つめている。赤時だけは再び時計を見ていた。地理的状況から見て『三番隊』であると思いながら。

 しかし予定より、二分三十秒早い帰還である。幸先が良い。


 作戦のタイムキーパーである赤時は、一人だけ『蚊帳の外』であったのだが、それは赤時も笑って享受していた。

 会議室の奴らは、先制攻撃を仕掛けた三部隊の内『どの部隊が一番先に帰って来るか』を賭けていたのだ。


 ちなみに賭けたのは『夕飯のフルーツゼリー』である。プラスティックの容器に入った、スーパーで常時安売りされている奴。

 先に言っておくが、決して今日の『夕飯のデザート』がそれだったからと、作品に出て来た訳ではない。久しく食べてないし。


 今朝ブラック・ゼロの黒沢から、特別支給されたものだ。

 何でも『中の市』という『特殊な市場』から、仕入れた物らしい。

 ニッコリ笑って人数分、置いて行ったときのセリフはこうだ。


『あぁこれぇ? 馬鹿、全然怪しいもんじゃないから。安心して』


 一旦、信じよう。夕飯まで生きていられるかは別として。

 しかし、果たしてそれで『賭けになるのか』は、当人次第なので良しとしよう。うむ。別に『現金』だけが賭けの対象ではない。

 戦場で『現金』など、何の役にも立たない。それこそ、煮ても焼いても本当に食えないではないか。


 階段を上る足音が消え、ドアの向こうに誰かの気配が漂う。その立ち昇る覇気を感じ取り、誰が帰って来たのかを当てるのだ。

 人が発する息や脇の下に『固有の臭い』があるように、実は覇気にも人それぞれの色味がある。それを目を瞑って感じろと。


「三番隊赤川、只今戻りましたっ!」

 瞬きをする一瞬しか、覇気を感じ取る猶予が与えられなかった。

 しかしどちらにしても、目を瞑って色味など感じられる筈もない。


「おぉ、三番隊の奴らが先だ」「よっしゃぁっ! ビンゴだぜ!」

「ゼリーゲットォォォッ」「まじかぁぁ」「また負けたぜぇ」

 嬉々交々ではなく、明暗が分かれた結果となった会議室。

 夕飯まで生きていられれば訪れる喜びと、夕飯まで生きていられれば訪れる悲しみが交差している。

 そう、奴らは互いの『未来』を今、交換し合ったのだ。


「お帰りっ! 無事でよかったなっ! 俺は信じていたぞっ!」

 嬉しそうに赤井が赤川を出迎えた。どうやら赤井が、『三番隊に賭けていた』のは明白である。赤川の顔が苦笑いになった。

「赤井さぁん。先ず『その一言』が先でしょうがぁ。もぉぉっ」

「悪い悪い。帰って来て喜んでいるだろうがぁ。なぁ?」

 笑顔で肩をポンポンと叩く。隣にいた男が赤川に握手を求めた後、地図正面の場所を譲る。勿論、赤川からの報告を聞くためだ。


「よっしゃぁっ! 五ー九ー六の三連単、来たぁっ!」

 突然立ち上がった赤田の耳から、イヤホンがポロリと落ちた。

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