アンダーグラウンド掃討作戦(百九十二)
赤川は殺人ドローンの羽音を聞いていた。
さっきまでとは違い大分喧しい。地面を叩いているのだろう。覗き見たりはしないので、正確な所は判らない。
慎重な赤川の代わりに実況中継すると、上から覆い被さった粘着液付きの網が殺人ドローンを捉えていた。
通り道に釣り糸を仕掛け、それが切れた瞬間に固定した重りが天井から外れたのだ。割と単純な仕掛けであるが、通り道が判っていればとても効果的である。
お陰で、プロペラに網が絡まって浮力を失った。
右前方、左前方に突き出たアームの先に、高速回転するプロペラがあるのだが、そこに網が絡まってしまったのだ。
ジタバタすればする程絡まって、遂に動かなくなってしまった。
おまけに粘着液があらゆる所に付着して、復旧は困難を極めるだろう。仮に本体を回収したとしても、奇麗に掃除して再び攻撃に参加出来るようになるには、相当の時間が必要と思われる。
しかしスイッチが切れた訳ではないので、内臓コンピュータは動作し続けている。『攻撃の手』を止めたりはしないだろう。
だから用心に越したことはない。油断は禁物だ。
覗き見たり蹴っ飛ばしたりして、万が一にも銃撃される可能性は捨てきれない。君子危うきに近付かずだ。
鹵獲した奴をバラして、中をつぶさに確認しているから判る。
搭載されている銃は固定されているのではなく、ある程度の角度調整が可能となっていた。
これは予想だが、全体の姿勢を傾けて狙うより、固定した状態で撃てるように改造された形跡が伺える。
それに『オプションベイ』に搭載された物にも戦慄を覚えた。
幸運にも鹵獲したのが二機だったことで判明したのだが、『自爆用の回路』があって、その先に繋がっている機器に違いがあった。
それを解析したブラック・ゼロは『オプションベイ』と命名して呼んでいたが、相当に厄介な代物だったのだ。
鹵獲したものの一つは、金属を腐食させる『強力な薬品』が仕掛けられていた。自爆装置が作動しなかったのは、水没して電子回路がダメになってしまったからだろう。
二機目は用心のため、小さな穴をあけて内部を覗き見た。
すると見えて来たのは『Cー4』、プラスチック爆弾である。
残念だが、こちらは分解そのものを諦めた。正直『時間が無かった』のもある。しかし安全を考慮してのことだ。
こちらも水没したので、自爆装置は死んでいるかもしれない。
しかしマイクロスコープに映ったのは、『耐水性の信管』だったのだ。これでは裏蓋を開けた瞬間、爆発しても文句は言えまい。
赤川は殺人ドローンが喚き散らす音が、完全に聞こえなくなってからそっと動き出す。裏口から出ると飛び込んだ扉の前に現れた。
さっきまで乗っていた『電動キックボード』を探しに来たのだ。
道路に転がっているのを見つけると直ぐに走り出す。
「みんな、上手くやってるかなぁ」
真暗な廃墟街を駆け抜けると、生ぬるい風が頬を伝わって行く。




