アンダーグラウンド掃討作戦(百九十一)
奇襲作戦に参加した者は、事前に調和型無人飛行体の実物をじっくりと鑑賞していた。ブラック・ゼロが富士演習場から脱出する際、どさくさに紛れて鹵獲してきた奴だ。
水没してしまったので動かないが、大きさについては把握できる。
武装や内部プログラムの類は、多少の変更はあるだろう。それでも多段式で積み重ねる構造である以上、大幅な変更はあり得ない。
だからこそ『振り切り作戦』を、立案することができたのだ。
電動キックボードを操る赤川は、ドローンの操縦免許の保有者だ。
本気を出したドローンが、どの程度の速さであるかは知っている。それに、自分が今追われているのは軍事用。
商用ドローンより、断然速いに決まっているではないか。
電動キックボードは、当然のようにリミッターを解除してある。
どの道アンダーグラウンドでは、『保険』が効かないのだ。自動車保険は勿論、生命保険もガン保険も船舶保険だって適用対象外。
ゴルフのホールインワン保険だって、全くもって意味がない。
「うおりゃぁっ!」
赤川は電動キックボードから転げ落ちた。
何かに引っ掛かって、転倒した訳ではない。自ら転がり込んだのだ。即席の肘当て膝当てをしていたが、痛いものは痛い。
転がり込んだのは古い建物の勝手口ドア。少し細長い奴。
偶然見つけて飛び込んだのではなく、そこが『逃走経路』なのだ。
ここまでは上手く逃げ込んだと言える。しかしドアは開きっぱなしで閉める様子もなく、赤川は姿勢を低くして床を這う。
何故ならドアの少し離れた場所に、割れたガラス窓がパックリと開いているからだ。勝手口から入れなければそこから入るだろう。
すると想定通りに、殺人ドローンが現れる。
さっきから赤川の姿を暗視カメラは捉えていた。しかし悩んでいたのだ。その姿が『人間であるかどうか』に。
人工知能は様々な『人間の姿』を記憶しているが、その中に『電動キックボードの上で踊る姿』は未登録だった。
三つ目通りの交差点で軽トラックを降りた瞬間は、確かに『人間』だったのであるが、後はずっと『追跡モード』のままで遷移。
しかし、道路に転がった瞬間から『攻撃モード』に切り替わる。
直ぐに後を追って勝手口の前へ。しかしその先には進めない。
物理的な幅が本体よりも狭かったからだ。直ぐに建物の探索を始めた。音波を発信すると建物の中にいて、床を這う音も聞こえる。
建物には普通『窓』があるのは学習済だ。早速探す。
壁伝いに真っ直ぐ行けば窓がある。中の様子も判るだろう。ちょっと弾が勿体ないが、窓ガラスであれば割ってしまえば良いし、姿が見えれば窓越しに撃っても良い。ほらっ。窓ガラス発見。
殺人ドローンは割れている窓を見つけて侵入する。
すると一瞬、隣の部屋から『ピカッ』と光るものが。
果たして人工知能が『そこかっ』と言ったかは、設計した高田部長に聞かないと判らない。加速したのは確かなのだが。
次の瞬間、『ねっちょり』したものが覆い被さって、墜落した。




