アンダーグラウンド掃討作戦(百七十九)
「狙ってない。狙ってない。全然狙って無いよ」「本当かなぁ」
疑り深い孫の眼差し程、困ったものはない。
目の中に入れても痛くはないのだが、言葉の端々が胸に突き刺さる。思わず話題を変えた。変えざるを得ない。
「黒山、『ご招待中止』の連絡を入れてくれ」「了解」
振り向いて黒山に伝える。すると黒山は頷き走り始めた。それを見た黒川も会釈して後に続く。
「何々? やっぱり『逢いたかった』とかぁ?」「いやいや」
苦笑いで二人と別れた黒田は、琴美を連れて角を曲がると部屋のドアを開けた。部屋の中は真っ暗だ。
そもそもアンダーグラウンドにあるブラック・ゼロの拠点は、自家発電と盗電により生活が成り立っている。
だから電気は『貴重品』に入るのだ。無駄にはできない。
黒田が電気を点けると、部屋を見通せる程には明るくなった。
しかし琴美には『それで十分』だと判る。何故なら暗闇に浮かび上がったのは、剥き出しの基盤と配線が並ぶ電算室だったからだ。
「へぇ。凄いじゃん。これ、おじいちゃんの?」
記憶にある祖父は、コンピュータに不慣れである。それ所か、家電すらまともに使ってはいなかった。
テレビはNHK固定で、天気予報になるとコンセントを差し、時報と柱時計の誤差を確認するとコンセントを抜く。
炬燵の上にあるリモコンは、ラップに包まれて大切にされているものの使用せず、コンセントが『リモコンの代わり』だったらしい。
「いや違うよ」「だと思った」
互いに笑い合って頷く。後から入って来た黒井にも、琴美は一応確認したのだが、黒井も首を横に振っている。
「使って良いんじゃないですか?」「そうですか。じゃぁ遠慮なく」
琴美は使おうとするコンピュータの周りを確認する。
そして通信ケーブルを引っこ抜いてから電源を入れた。
立ち上がり始めたOSを途中で止めると、『最低限の機能』を選択して再起動する。そして起動したコンピュータで『実行されているプログラムの一覧』を確認し始めた。
よしよし、どうやら怪しいプログラムは実行されていないようだ。
「いつも『そんなこと』をしているの?」
不思議そうに聞いて来たのは黒井だ。黒田はコンピュータは苦手なのか、口をへの字にして見守っているだけ。ちょっと情けない。
「だって『他人の』なんて、信用できないじゃないですか」
「そんなもんですかねぇ」「何が入っているか判らないですよね?」
琴美は画面を見たまま、通信プログラムの準備を始めていた。
「オリンピック選手は、選手村でトレーニング中に開封した『飲み掛けの飲料』を、蓋してあっても絶対に飲まないんですよ」
「そうなの? 何で? 勿体ないじゃない」
琴美に聞かれても黒井には判らない。すると琴美は、『今言ったばかりなのに』と思いながら振り返った。
「目を離した隙に、『何を入れられたか判らない』ですよね?」
「あぁ。なるほど。えぇっ! そんな厳しい世界なのぉ?」
琴美からの返事はない。それより『エイッ』とエンターキーを押下すると、ネットワークに繋がったようだ。




