アンダーグラウンド掃討作戦(百六十三)
『嫌だなぁ。何言ってんですか? 散々お世話になったでしょうよ』
鬼神にそう言われましても、黒井には何が何だか判らない。
少なくとも『お世話』にはなっていない。『そっち系』には興味がなかったからだ。
『お前あれ見て、『何』だか判るのかぁ?』
黒田に聞かれた問いの方が、寧ろしっくりくる。
そうだ。鬼神には伝えていなかったが、黒井はこの世界『大日本帝国』の人間ではない。『日本国』の人間である。
「判りますよ。蒼龍に飛龍、翔鶴、瑞鶴」『おぉーおぉーおぉー』
「奥のはあれ、『先代加賀』ですかぁ?」『おぉ。今度行こうぜ』
写真でしか見たことがない、日本の航空母艦だ。全て大東亜戦争で轟沈している。それが何故鹿島港に?
『何だ。やっぱり判ってるじゃないですかぁ』
『いや鬼神。奴はちょっと違うんだ』『えっ? 何がですかぁ?』
鈴木少佐が首を傾げ、『不思議に思う』のも無理はない。
鹿島港に停泊しているのは既に現役を退いた航空母艦で、ある艦は『訓練用』に、またある艦は『標的艦』となっている。空母搭乗員となるために、百里基地から訓練飛行を散々したはずだからだ。
元々『プロペラ機仕様』なので、練習には持って来いだ。
始めは『上空通過』から。実はこれが結構難しい。そもそも『探す所』から始めなければならないからだ。海の上に浮かぶ『針』を。
続いて『タッチ&ゴー』。ビビッて『タッチ』すら出来ない者多数。こうして『操縦適性』を早目にチェックして、優秀な搭乗員を選抜している。忘れたとは言わせない。
万全の救護体制を整えて『悪天候離発着訓練』や、自動車レースよろしく『補給訓練』なんかにも使われた。
基地の上官からは『これなら壊してもOKだから』と、軽いノリで送り出されたものだ。しかし実際に『壊して』しまうと、艦橋から文字通りの『鬼教官』が飛び出してくるから始末が悪い。
『へぇぇ。そうなんだぁ』「そーなんですよぉ」
初めて知った事実に、鬼神は感心しきりだ。世の中『知らないこと』が実に多いことか。
すると昇降中のエレベーターに、見事自機をぶち込んでしまった黒井や、投下した模擬弾を、見事艦橋にぶち込んでしまった黒井は、一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「いやぁ俺も『T4から脱出した所まで』しか、記憶になくてさぁ」
ポリポリと頭を掻く。気が付いたらT4は何故か残骸すらもなく、電柱から落ちた所だった。それも『多分』なのだが。
『何だそうなのかぁ。アハハ。やっぱ『お前』はお前だぁ』
「何だよ。それぇ」『いやぁ。変わってないなぁってことっ!』
納得したように、明るく返す鬼神の声が無線から聞こえてきた。
それを聞いて黒井は、思わず眉をひそめる。
どうやら、どちらの世界の黒井も、しっかりと『黒井は黒井』、だったらしい。無線からはまだ、鬼神の笑い声が響いていた。




