アンダーグラウンド掃討作戦(百六十二)
今振り返って見えたのは銚子大橋だ。
利根川の河口から晴嵐で遡上すれば『意外と近いなぁ』が、素直な感想である。いや待て。
今はそんな呑気なことを、言っている場合じゃない。
水面スレスレを飛ぶ高度のまま再び前を見たときには、次の橋が目の前に迫っていた。利根かもめ大橋である。
今更高度を上げる操作も出来なくはないが、危険な香りが漂う。
「おいっ! 高度を上げろっ!」『大丈夫だ。任せとけっ』
橋桁の下を一番機がビュンと通過。直ぐ後ろの二番機も、追尾しているのだからそれに続く。通過する瞬間、黒井は思わず首を引っ込めた。無駄だと判っていても、そうせざるを得ない。
後ろのアルバトロスは、呑気にまだ寝ていやがる。
そう言えばイー407で準備をしている間も、アルバトロスの野郎だけ椅子に座り、梅むすびを食っていたっけ。
○っぱい○っぱい言いながら『ハァハァ』しちゃってたなぁ。壁に貼られたマリンちゃんの、『全身ポスター』を眺めながら。
『ほらぁ。大丈夫だっただろぉ? 信頼してくれよぉ?』
無線からは、鬼神の呑気な声が聞こえて来る。
『良いぞ良いぞぉ。飛ばせ飛ばせぇっ! ヒャッホーッ』
「じじぃ、うるせぇぞっ! 飛んでるだろうがっ!」
黒井が強めに言っても、前の二人に『聞く耳』はあるのだろうか。
川面に映る晴嵐の陰が二つ、ピッタリとくっ付いたまま猛スピードで飛行中だ。今の所幸いにも『侵入』には成功している。しかしそれは、黒井にしてみれば『仮初めの成功』としか思えない。
「良いから高度を上げろっ! 鬼神っ!」
『大丈夫。大丈夫。ぶち込みは、後ろで寝てろっ!』
『そうだそうだぁっ』
黒田まで調子に乗って、後部座席で楽しそうにしている。
一番機は川の流れに沿って軽く右へバンク。そして今度は軽く左へバンクを切った所で、三番目の橋が暗闇に浮かび上がる。
『行くぜぇっ!』『行け行けゴーゴーッ』
「高度を上げろっ! 河口堰、水門だぞっ! 鬼sうぐっ」
黒井が叫んだ瞬間、操縦桿が手前に倒れて来た。機首がもの凄い勢いで上がって行く。
「うわあああああっ! なんだぁぁぁっ!」
ウエポンベイのアルバトロスが、上昇するGに驚いて目を覚ましたようだ。バタバタしているが、ピッタリ嵌っていて動けない。
『良いねぇ。見ろよっ! 鹿島港の方まで見えるぞぉっ!』
こんな状況でも、黒田は呑気に観光でもしているのだろうか。
『ホントだぁ。懐かしいのが居ますねぇ』
「おい鬼神っ! よそ見をするなぁぁぁっ!」
『もうちょっと見えるか? 写真に撮る』『ガッテン承知っ!』
一番機が垂直になって高度を上げていく。やがて背面になって、結局無意味な縦ロール一回転を決める。
「おい、あれ何だぁ? 何でこんな所に」
何だかんだ言って黒井も、冷静に鹿島港方面を眺めていた。
そこには『既に存在しないはずの艦』が、停泊していたのだ。




