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アンダーグラウンド掃討作戦(百六十一)

 黒井は左翼の方をじっと眺めていた。それは、『思想的』にではなく『方角的』な意味で。

 パイロットにとって『翼』は、左右対称で基本的には同じ物。右翼も左翼も大切で、どちらが欠けても困る。そんな思想の持ち主だ。


「あの光が『犬吠埼』か?」『あぁそうだ。行くぞ』「頼む」

 回転する灯台の明かりが闇夜の海を照らす。

 まだ向こうからは見えないだろうが、こちらからはハッキリと見えている。そして、その光を避けるように進路を取った。

 機体が左に傾いて、見る間に海面へと降りて行く。


 まだ夜は明けていない。思えば一睡もしていなかった。

 二番機は一番機の後を付いて回るだけ。だから少しは眠れたかもしれない。後ろのアルバトロスのように、いびきを掻いてぐっすり、とは行かないまでも。うとうとする位には。


 しかし空の上で、操縦桿を握りながらは無理だ。

 速度の割に、風も吹き込まない操縦席。快適と言えば快適だ。この上ない幸せにも感じる。

 こうなるともう『職業病』かもしれないが『自動操縦に全てを任せる』という行為に、心のどこかで引け目を感じているのだろうか。


 真っ直ぐ飛んでいても、操縦桿やラダーを細かく調整し続けていることが伝わって来る。

 操縦に合わせて、全ての操作が再現されているからだ。

 鈴木少佐が操る一番機の操縦は、流石に『空の鬼神』と呼ばれるだけのことはある。黒井はその操縦を体で感じていた。


 ぼんやりとしながらも、『今の正解』『ん? 何をした?』『へぇ』『そう来たか』『やるね』『ケツ掻いてんのか?』とか判る。

 だからこそ『眠れない』というのも、一因だろうけれど。

 この自動追尾システム『猫まっしぐら』は、『操縦演習』にも役立つかもしれない。いや、普通に『二人乗り』にすれば良いだけか。


『このまま突っ込むぞ。付いて来いよっ』

 黒井は頷いた。操縦桿を握り直す。海面すれすれを走るように進む機体は、黒井が思う高度より二メートル程高い。

 その理由は『足元』を見れば明らか。


 海面に着水するための『フロート』が付いているのだ。

 これがあるお陰で水さえあれば、何処でも着水できるので『隠密行動』を執るには良いだろう。

 しかしこの速度で万が一海面を擦りでもしたら、地面に激突したのも同じで、前へつんのめってしまうであろうことは判る。

 ここはもう、『鬼神の御業』を信じるしかない。


 あっという間に銚子港へ近付くと、防波堤を避けて侵入。銚子ポートタワーを左手に見ながら駆け抜けた。

 海上を飛んでいるのだが、『駆け抜けた』という表現で正しい。


「おおおおっ、おいおいおいおいっ!」

『何だぁ? この時間、寿司屋はまだ閉まっているぞ?』

 黒井が思わず声をあげたが、鬼神からは冷静なボケ。しかしあっという間の出来事だったのだ。黒井は思わず振り返って叫ぶ。


「橋の下を潜る必要があったのかよっ!」

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