アンダーグラウンド掃討作戦(百五十九)
『追尾が終了しました。自力飛行よろしくお願いします』
「おい鬼神! この馬鹿何やってんだっ!」
黒井の罵声が無線に吸い込まれて行く。
しかし『受信』になっていることに気が付いて、『送信』に切り替えようとする。いや駄目だ。そんな暇はない。
操縦桿が勝手に動き出しそうになるのを感じて、黒井は両手で操縦桿を握り締めた。落ち着け。現在上昇中だ。
しっかりと操縦桿を押さえていないと、フルパワーで回るプロペラの勢いで、ひっくり返ってしまうぞっ。
力を込めて機首が上がり過ぎないように、操縦桿を押さえ込む。
すると目の前が『ヒュッ』と開けた。一番機が消えて星が見える。
『あれがカシオペア座だぁ☆ミ』
なんて、悠長に思う暇もない。鈴木少佐、いや鬼神の野郎がバンク角を変えて左に巻いたのだ。素早く視界に捉えた。
ならばと右へ。そして直ぐに左へ。機体の動きを診る。
「良い動き、するじゃねぇか。えぇ? 晴嵐さんよぉ」
こいつ『フロート』が付いているせいで、てっきり『鈍重』なのかと思っていた。それが、そうでも無いようだ。
クイックな操作をしても軽やかに追従し、翼を左右に振って見せた。後部座席に、二百五十キロ爆弾並みの『アルバトロス』を、搭載していると言うのに。
あぁ、『ウエポンベイ』状態で空力的に優れているのか。成程。
もう一度、一番機を視界に捉える。
前席の鬼神と後部座席の黒田が、揃ってこっちを眺めて『遊覧飛行』と洒落込んでいるじゃねぇか。面白れぇ。
黒井はスロットルバーと、足元のペダル、それに操縦桿をも同時に操作して微笑んだ。
「うおぉぉぉっ! 何やってんだよぉぉっ! おちるぅぅっ!」
その瞬間、ウエポンベイからの絶叫が黒井の耳を捉えた。
しかし残念。その雑音は翼の回転と同じく右耳から入ると、聴覚野の神経細胞を全てスルーして左耳から抜けて行った。
黒井の目が、一番機のコックピットを捉えていたからだ。
最初、進行方向に対し右を見ていた鬼神と黒田の二人が、表情を変えながら見上げるように揃って首の角度を変える。
そして尚も揃って左側で落ち着いたと思ったら、鬼神は前を向く。
後ろの黒田は目を丸くしてグッと身を乗り出すと、真後ろを凝視した。するとその表情が、キャノピーへ思いっきり打ち付けられるように一番機は右へ。
『追尾を開始します。操縦桿に手を添えて待機して下さい』
「じじぃ、ざまぁ。どうだ鬼神。ロックオンだぁ。バァァン!」
トリガーは引いていない。再び『追尾』のボタンを押しただけだ。
『ちきしょぉ。流石は『ぶち込み』。腕は落ちてないっすねぇ』
『この野郎っ! お前、本当にパイロットだったんだなっ!』
とても悔しそうな声で言われても、黒井は鼻で笑うだけだ。
『じゃぁ今度は、『本気』で行きますかっ!』
『馬鹿止めとけっ!』「馬鹿止めとけっ!」「馬鹿止めとけっ!」




