アンダーグラウンド掃討作戦(百五十七)
闇夜に浮かび上がるド派手な『海上花火大会』を、屈託のない笑顔で眺めている奴らがいた。イー407から発艦した晴嵐に搭乗する、鈴木少佐と黒田の二人だ。
「良い景色だなぁ。おっ、今度はスターマインだ」
「奇麗ですねぇ。花火なんて、暫く振りに見ました」
席は前後だが、呑気に話す互いの声はバッチリと聞こえている。
「いやぁそれにしても、ここは『特等席』ですねぇ」
「そうだな。しかし、この角度からの眺めも良いなぁ」
ある程度の高度を保ち飛行を続ける晴嵐なのだが、それでも二人は花火を『見上げて』楽しんでいる。
「ちょっと角度を変えてみますかっ!」
「おぉっ! イイネェッ!」「ヒャッホーッ」
その瞬間、真横になっていた晴嵐がクルンと一回転。今度は逆さまになっての『花火見物』としゃれこんで観る。
「素晴らしいっ! 花火が逆さまに打ち上がっておるっ!」
「大佐、お言葉ですが『打ち下ろされている』では?」
鈴木少佐は黒田のことを『大佐』と呼称している。まさか『ぶち込みの黒井』じゃあるまいし、『じじぃ』呼ばわりは無理だ。
「確かに。しかしこの角度は、地上でも逆立ちすれば観れるなぁ」
「そうですねぇ」「今度、地上でもやってみるか」「ハハハッ」
二人共逆さのまま呑気に笑い始めた。
『そうですねぇじゃねーし。じじぃもじじぃだっ!』
無線に割り込んで来た怒号。その声は噂の『ぶち込みの黒井』だ。
『もしもーし。鬼神さーん。まだですかぁ? 準備OKですよー?』
じれったくなったのだろう。いやそれとも何か? 黒井も『花火大会』を見物したいのだろうか。うん。その気持ちは判る。
「あぁ、今からそっちにアプローチ掛けるぅ。オーバー」
『急いでいるんじゃなかったのかよっ! たくぅ。あ、オーバー!』
鈴木少佐は振り返ると、後ろの黒田へ済まなそうに『苦笑い』を見せた。すると黒田も苦笑いで頷く。花火見物は終了だ。
結局の所、再び急旋回してイー407へと近付く。艦尾からだ。
グングン高度を下げれば、見る間にイー407が見えて来た。眼前に広がる黒一面の海。そこへ一筋の白波が見えている。
確かに『急いでいる』と見えて、鈴木少佐は『急降下爆撃』よろしく高度を下げている。
艦橋で見上げていた監視員が『双眼鏡』を外して裸眼になると、思わずしゃがみ込むほどの迫力だ。
「所で、尾灯は点けなくて良いのかぁ?」
「そうでしたぁ。尾灯点灯しまぁす」「ようそろぉ」
乗員の二人は、そんな『急降下』さえも楽しんでいるようだ。
鈴木少佐が尾灯を点灯したついでに、操縦桿をグイッと引っ張ると、晴嵐の角度が変わる。そのままイー407の上空を通過。
『バーン!』カタパルトから、後続機を射出する爆音が響く。
「ここで尾灯消したら、奴は怒るかなぁ」「やってみますぅ?」
鈴木少佐が振り返ると、前に向き直った黒田が『ニッ』と笑った。




